「僕と、お付き合いしてくださいませんか?……もちろん結婚を前提に。」
レイシ様に渡しそびれた書類を届けに行ったらまさかあんな現場を目的してしまうとは。
心底自分の間の悪さを呪いました。
幸いにもレイシ様には気がつかれずに済んだものの(クラウドには気づかれましたが)、私の手元にはレイシ様に渡しそびれた書類が残っております。
私が一方的に気まずい思いをしているのは分かっているのですが、彼女にどんな顔をして会えばよいのかどうしてもわからないのです。
(残業でもして帰りましょうか。)
レイシ様が来てからは最低限以外残業しないようにしていたのですが。
唐突にがちゃり、と音がして駅長室のドアが開きました。
「あ、ク、クラウドですか」
レイシ様でなくてよかった、とちらりと思ってしまい更に気持ちは後ろ暗くなりました。
「ボス、書類はここに置いておくんで」
クラウドはそれだけ言って、出て行こうとしました。
その背中につい、私は話しかけてしまいました。
「さっきレイシ様がお客様にその…………こ、告白されていましたが」
「それがどうかしたんですか?」
恋愛は個々の自由でしょう、とクラウドは振り向きもせずに答えました。
「……そうでございますね」
上司だからとはいえ、詮索すべきものではございません。私が言葉に詰まるとクラウドは無言で出て行きました。
「…………むしろ盗撮現場などなら、よかったのかもしれません」
そんな不謹慎なことをつい呟いてしまった私は、クダリに連絡をとりました。
「クダリ、今日、私の代わりにレイシ様と一緒に帰ってくださいませんか?えぇ、ちょっと残業が。」