傘がなくなっていた。紛失していた。
「……えぇ、と」
これで今月に入って無くなったものは、傘が二本と、筆箱、あと教科書ノート。
勘弁してくれ。見知らぬ人からもう辛いとも思わなくなった。泣きたいとも思わない。
犯人はおそらく、この前私が振った男の取り巻き。そういえばわらわら引き連れてい
た。
女って怖い。というか取り巻きの女にこんな事をさせているのか。
やはりあそこできっぱり振っておいて正解だった。
そんな事より今日も濡れて帰るのか。
寮までの距離は地味にある。帰る頃には濡れ鼠決定だろう。
ただでさえ最近風邪気味なのに。
「よし、」
走るか。
校舎棟の屋根の下から走り出す。当然数十秒と経たないうちに全身ずぶぬれになる。
「へくしゅっ」
体が冷えてついくしゃみが出る。というか体がやけに熱い。暑い。
あれ、これ、やば、い?
ぐらり、と体が傾きそうか私は倒れるんだなと思った。
倒れた瞬間、彼に名前を呼ばれた気がした。ついに幻聴まで聞こえるようになったらしい。
「気が付いたか」
「ネイガウス先生?」
いつの間にか私は(塾の方の)医療室のベッドに寝かされていた。
ついでにちゃんと服も着替えさせてくれている。
「服……」
「俺が着替えさせた訳じゃないからな」
「そんな事言われなくても信用してますよ」
大方女性講師の誰かに頼んだのだろう。
そして彼の事だから、確実に私に訊いてくるだろう。
「お前、何であそこで倒れていた?」
ほら、きた。
泣きたい夜を指折り数えて