「落ち着いたか」
「はい。…………あの、すみませんでした。」
私の手にはコーヒー。先生が淹れてくれたものだ。ブラックなので少し苦いが、温かい。
「気にしなくていい。それで、その、とりあえず、だな」
彼が私の為に言葉を選んでいた。別にいじめと言おうが嫌がらせと言おうが意味には変わりがないのに。
彼のその優しさが私は好きなのだが、別にその程度気にしなくてもいいのに。
「私は塾の講師だから、あまりそちらの、学園の方には干渉できない。フェレス卿……学園長には伝えておくが」
このくらいの事しかできなくてすまないと彼は言った。
「そこまでしていただければ充分です」
むしろあなたに心配してもらえた時点で充分だ。
そんな話をした後で、雨が止んだ。
もう暗く寮の門限も過ぎている為彼に送ってもらって帰る事になった。
「わざわざすみません」
「いや、体調が優れないお前を無理に引き止めたのは俺だ」
「もう、大丈夫ですよ」
そう私が笑ってみせると彼は険しい顔をした。
「お前は生徒なんだから、もっと私たち教師を頼れ」
くれぐれも無理はするなと先生は私の頭をくしゃりと撫でた。
「……はい」
「明日は無理そうなら休め、後でしっかりフォローはする。それと、何かあったら俺の所に来い」
「……はい」
私が返事をしたのを見届けて、彼は表情をゆるめるとじゃあな、と去っていった。
「…………」
あぁ、彼に心配された、看病された、ねぎらわれた、
その特別扱いの一つ一つが嬉しいものであるはずなのに。
勘違いをしてはいけない。
所詮は、私と彼は、教師と生徒以外の何物でもないのだ。
泣きたくなったらここにおいで