悪魔の心臓の話 「昔々、あるところに、人間を愛した悪魔がいました 「悪魔は、その人間にこう訊きました『あなたが死ぬまで自分を愛してくれますか?』 「人間は、その問いかけに、もちろんそうするつもりだと答えました 「すると悪魔は、自分の不老不死と引き換えに、自分の心臓を人間に預けました 「人間はその心臓を受け取りちゃんと大切に持っていました 「人間と悪魔はそうして二人で末永く幸せに暮らしましたとさ 「めでたしめでたし。 燐が話し終えると、真剣に聞いていた子供たちが燐に群がり口々に話しかける 「ねぇ燐兄ちゃん悪魔って本当にいるの?」 「おーいるいる。まぁでも悪魔っつってもいい悪魔もいるんだぞーこの話みたいにな」 さすがに自分も含め、とは言えない。 「この話って本当なの?」 「…………うーん」 そもそもこの話は義父――藤本神父から寝物語に聞いた話であり、そもそもそんな伝承があるかどうかすら定かではない。 雪男が生きていたら訊けたのにもうとっくに愛した弟は土の下だ。 燐がむうと考え込んだところに、ちょうどよく声がかかった。 「奥村君、もうそろそろ行きますよ。」 声の主はメフィスト。自分と同じ、長い時を生きる悪魔、そして義父の友人。 「あぁ!あ、じゃあな皆!ちゃんと食って寝て遊んででかくなれよー!」 子供たちに別れを告げメフィストについて歩く。 「なぁメフィスト」 その道すがら彼にさっき訊かれた疑問を投げかけてみる 「……で、ジジィからこの話聞いたんだけど」 するとメフィストは少しだけ驚いた顔をして肯定した。 「えぇ、本当ですよ。ただかなりの脚色はされていますがね」 「そうなのか?」 「第一、悪魔と人間が本当に『末永く』暮らせる訳ないでしょう」 「いやでも心臓で」 「心臓にそんな効果はありませんよ。心臓を大切な人に渡す本当の意味は、君もなんとなくわかっているでしょう。」 メフィストの言葉に少しだけ顔をくもらせるする燐。 「大切な人間を自分が殺しそうになったら、その時その人間に自分を殺してもらうためですよ」 君が奥村雪男に心臓を渡したように、とメフィストは言う。 「まぁでも、奥村雪男はもう死んでしまいましたけどね」 「……まぁな」 「それにこの話の人間と悪魔は一緒に暮らしませんでした。人間は聖職者だったし、それに子供がいました。」 そこまで聞いたところではっとした顔をする燐。 そういえば義父の遺品を整理していた時小さい不自然な空き箱と写真があった。 その空き箱の大きさはちょうど、心臓が入る大きさで。そして一緒にあった写真は、 「なぁメフィスト、この話の悪魔と人間でまさかお前とジジィ」 「どうでしょうねぇ?ずっと前にも言いましたが、少なくとも私の心臓は今も私の手元にあります。君の心臓と同じく。」 悪魔の心臓のお話 「なぁメフィスト、お前の心臓はどんな味だった?」 「甘くて、苦かったです」 とてもね、と付け加えメフィストはくすくすと笑った [戻る] |