それはかの禁断の果実に似ていた

「しばらく預かっておいてください」


そう言って彼に差し出したものは赤いガラスのような素材のいびつな球体。


彼は受け取ってから


「何だこれ」


と訊いた。


「悪魔の心臓です」


本気で怪訝な顔をする彼。


「まぁ、別に物質界ですごす分には、その心臓は無くても別にそこまで変わりません
し。」


「でもお前、心臓というからには副作用がある。そうだろ?」


彼は本当にこういう事だけには聡い。


「えぇ、まぁ悪魔によって違いますけどね。」


「お前は?」


「低級悪魔なら魔力が使えなくなる等ありますけど、私ほどになると、せいぜいが人間と同じように時が流れる、とかそのくらいですね」


それはつまり彼と一緒に齢をとれるということで。


そんな自分の思惑など知らない彼は


「いいのかそれ」


と言う。


「どうせ、あなたの一生なんてせいぜい後数十年でしょう?」


「違ぇねぇ」


そう彼は笑う。


どうせ結ばれないのだから。一緒の時を歩むくらいはかまわないだろう。


「あなたが死ぬまでですしね。死んだら返してくださいよ。」


どうせ死ぬまで愛してくれるんでしょうとも彼に言う。


「あぁ、そりゃそうだ。」


彼はそれをまるごと肯定した。


「じゃあ、預けましたよ」


どうせ彼がそれを持っている時間なんて私たちにとっては些細な時間だ。


私の心臓はかの禁断の果実に似てい



「……ところでこれ戻すときどうするんだ?」
「食べます」
「……へー……まぁリンゴみたいに見えなくもねぇしなぁ」



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