憧憬
「でなー、この前燐が誕生日にでっかいケーキ作ってくれたんだけどな?でかすぎて二日またぎで全員で食ってやっと全部食いきれてさぁ、美味かったけどな?」
にやにやとだらしなく笑った顔で語る獅郎。
「ずいぶん変わりましたね、獅郎。所詮人の親になりましたか」
「そうか?人の親もいいもんだぜ。ま、人は変わるもんだ」
しみじみとそう言う獅郎に何故かいらいらする。
その原因はすぐ見つかった。
「……それは変われない私へのあてつけか?」
私はお前と違う種族なんだからそれを言ってもどうしようもないんだと分かっているけれど。
それでも、確かに私は彼が変わっていく事を恐れている。
「別に、お前も変わってないっつーことはないだろ」
「は?」
「お前も随分丸くなったぜ。別に人だけが変わるなんてねぇだろ」
さも当たり前のようにそう言う獅郎。
「……馬鹿か」
不本意ながらその言葉でさっき感じたイラつきが薄くなっていくのを感じる。
「なぁ、今度お前さぁ、燐の飯食いに来いよ」
「そうですね、そのうちに。」
この回答もあぁ、前の自分じゃ考えられない。
獅郎が少し驚いた顔をして、そしてすぐに笑顔を浮かべる。
「……なぁ獅郎、少し目を閉じてろ」
別に、人間の文化をすばらしいと思ったことこそあれ、人間が老いて行くのをうらやましいと思ったことは無い。
でも、人間は時が経てば変われる。それは少しうらやましいと、最近思い始めた。
「なんだよ急に」
怪訝そうな顔をしながらも目を閉じた獅郎。その閉じた目にそっと口付けた
憧憬憧憬
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閉じた目の上にキスは憧憬らしいです。
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