さん、にぃ、いち
夢の中なんだな、という意識だけやけにはっきりとしていた。
それでもここがどこなのか(こんなに大きな湖なんて私は知らない。少なくとも私の住んでる地方にはない)、なんで自分はここにいるのか、そんな事は全然わからない。
さく、と自分が草を踏む音すらよく聞こえるのだ。朝霧に濡れた草。私の裸足も湿っていく。
風が水面を渡るかすかな音がした。その風が急に強くなって、私は思わず目を閉じる。
次に目を開けたとき、水面に何かの影が落ちていた。
「あなただったの?」
なんだ、彼か。黒い煙のような体を揺らめかせじいと私を見つめている。
なんでそんなところに浮かんでいるの?と私が尋ねると彼は何も答えずにすうと私に近づいて、私に手を差し伸べた
その手をとると、ぐらり、世界が反転したような気がして気が付いたら湖はなくなっていた。それでも足元には水辺があって、私の足首は完全につかっていた。
ねぇ、ここどこ?
喋りかけたつもりだったのに、声は出なかった。
だんだん周囲の景色がかすんで行って、彼も一緒にかすんでいって、
さんにぃいちで目覚めたときにはきっと私は、すべてを忘れているのだろう。
さん、にぃ、いち
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