未完成
ばらばらばら、と転がっていくネジを私は必死に拾い集めました。
「ノボリさん!」
彼は、ぎぎぎ、とぎこちない動作で(ネジがいくつか抜けているので当たり前なのですが)こちらを振り返りました。
「あの、落としましたよ」
そう言って私は彼の手に、その部品をこぼさないように慎重に乗せました。
「申し訳ありません」
彼はその小さなネジ数個を、ぎゅうと握り締めました。
「少しだけ、仕事から抜ける、と、クダリに伝えておいてくださいまし」
「わかりました」
彼は、変わらずぎこちない動きで、私に背を向けました。
「ノボリさん!」
お礼、ちゃんと言わなきゃ駄目です。と私はつい口走っていました。
(直属ではないといえ)上司になんて事を言っているのでしょう。
彼はしばらく静止した後、ありがとうございます、と小さな声量で、私に言いました。
「どういたしまして」
彼はまた、一瞬間を置いて、今度こそ私に背を向けました。
未完成
[目次]