縄張
仕事の選り好みはよくないのだが、これだから夜勤は嫌なのだ。これだけは言わせて欲しい。
ぷうんと酒臭い顔を近づけ有難い説教をたれるサラリーマンから、気づかれない程度に顔さりげなく顔を背けた。こいつが最後の客である早く帰ってくれ。ホームの点検を終えて私は帰りたい。
聞いてんのか!?大体俺はこうして家のために働いてやっているのにあいつらときたら云々。一方的につばを撒き散らしつつ世間の女子と若者に喧嘩を売り出したこいつにどうやってお帰り願おうか。
それにさっきから私の胸に手を伸ばそうとしているこれはもう実力行使に出るほかないと思うのだ。私が口を開こうとしたそのとき、さっと誰かが私の肩を抱いて後ろに下がらせた。
「すいませんがもう終電も去ったので、お帰りください」
クダリさんだった。いつもは爽やか系お兄さんのくせにこういうときだけわけの分からない威圧感を便利に使うので、傍から見ている分には愉快。
その威圧感に圧されているリーマンはえぇはいすみませんねともごもご呟いて小物らしく退散しようとした。
その背中に向かってクダリさんは今度はしらふでのご利用お待ちしております。と頭を下げた。
「すいませんね」
私がそう言うと彼は爽やかに僕らの縄張りで好き勝手はさせないよ、と笑った。
縄張
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