積乱雲
あ、入道雲、と隣にいた彼女が指差した。
「違うよ、積乱雲だよ」
「同じじゃないの?」
そう不思議そうに彼女は首を傾げた。
「同じだけどさ……」
その頃の僕は特にうまい切り替えしも思いつかずに言葉に詰まったのだ。
「まぁどっちでもいいや」
彼女はそうあっさり引き下がり、溶けかけたアイスを一口で食べきった。
「早く食べちゃいなよ」
僕の手にもアイスが握られていてあともう一口といったところだった。
「あぁ、うん」
僕は急いでアイスを食べてしまうと、彼女と一緒にまた空を見上げた。
僕らがいる河原の水はどこまでも透き通ってきらきらと光を反射していた。
(ところで、彼女って誰だっけか)
「どうしたの?」
「うぅん、なんでもない。」
あ、入道雲、と隣に座った彼女が指差した。
積乱雲
[目次]