人魚姫
水をはった浴槽、だとか言うのに丁重に座らされ、その上からがしゃがしゃと氷が落とされる。
「君の住んでいた所は寒かったからね」
そう氷を落としながら奴は言った。
「あまりに熱い湯だと君が煮えちゃうだろ?」
うるさいわね、と目だけで訴える。
奴は、この人間は確かヒソカと名乗っていたっけか。
私の家族を、一族を、皆殺しにした人間。
そんな奴にこうしてつかまっているだけでも屈辱なのに、会話なんてしたくもない。
「水温の具合は?」
答えるわけがない。
「僕は君が好きなんだけれど、人魚姫?」
異形の一族の最後の一人、と奴は私の左手に口付けをした。
誰があなたの気持ちを受け入れるというの?
「私はあなたが大嫌いよ」
言い終わるなり体がしゅわしゅわと泡になっていく。
手を振り払ってやったのに奴は最後まで笑顔のままだった。
人魚姫
[目次]