あめだま
駅の売店に、見慣れた黒いコートが見えました。
「ノボリさん!」
そういえばこの時間帯は彼の休憩時間だったか。
しかしながらもう昼の休憩というよりかはおやつの時間である。
「どうしたんですか?」
ノボリさんがホームにいるなんて珍しい。普段はトレインの中か執務室にいるのに。
「ちょっと喉の調子が芳しくないもので。」
なるほど、風邪か何かなのか確かにノボリさんの顔はいつもより少しだけ赤く、心配になります。
そして手には飴の袋。
「大丈夫なんですか?」
「まぁ、大したことはないと思います」
心配してくださってありがとうございます、と言いながらノボリさんは買った飴の袋を開けました。
「本当は勤務中に飲食、というのはあまり褒められたものではないのですが」
そう言いつつ彼は飴玉を一つつまみ、ほおばりました。
「差し上げます」
私一人ではこの量をもてあましてしまうので、と彼が私に飴の袋を差し出しました。
「あ、ありがとうございます」
私が飴の袋を受け取ると、彼はでは、といつものように無表情でかつんかつんと去っていきました。
私は手元にある開封済みの袋を見つめるうちに、ふと疑問を抱きました。
(そういえば何でクダリさんに渡さなかったんだろう)
クダリさんも甘いものが好きなのに。
「黒いボスはどこ行ったんや……」
「クラウド、マスターノボリナラサッキホームデ、例ノアノ子ニ飴玉ノ袋ヲ渡シテイタヨ。」
「やっとフラグ立てられたんかあのボス。というかキャメロンお前、一部始終見てたんやな?」
「ダッテ楽シイダロ!アノ朴念仁ノ恋愛模様ナンテ!」
「否定できんわ……」
あめだま
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