なれのはて
なれのはて、とはよく言ったものである。
(片割れが死んで落ち込んでいるかと思えば。)
「おや、よくいらっしゃいました」
そう黒いコートで微笑む彼は、本当は、
「クダリさん」
「変なことをおっしゃいますね」
私はノボリでございます、と黒い服が小首をかしげる。
確かその癖はノボリさんの、
「恋人を間違えるだなんて、冗談が過ぎますよ」
「……ごめんなさい」
間違えるわけがないじゃないか私が、彼ら、を、
それでも私は今のクダリさんを見ると何も言えなかった。
謝った私の頭に彼がぽんと手を置いた。いつものように。
そのとき彼が小さく何か呟いた。
「なんか言いましたか?」
「いえ、なんでも」
…………しっかり聞こえてるっての。
「そもそもボクは、ずっとノボリがうらやましかったんだよ」
彼が何のなれのはてだったのか、私は勘違いしていたようだった。
なれのはて
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