見ないで
奴の嗚咽が聞こえた方に歩き出す。
「な、にしに来たんです、か、ぼす、」
「るせぇカス」
「痛い!」
まったく俺は何をしにきたんだ。こんなカス放っておいてもいいだろうに。
腹いせに脳天にげんこつを落とす。
「あー……もう……見ないでください、よ……」
最悪、と奴が涙を拭う。
「俺もだ」
「なら見ないでくださいよぉー」
べそべそと涙をぬぐう奴。もうそろそろうざったらしくなってきた。
「泣くな馬鹿」
「……なんでいちいち語尾で罵倒するんですか」
「るせぇ」
どうせそこらのカス野郎に捨てられたとかそんなんだろ、と俺が言うと違いますと舌を出された。
じゃあどうせ犬ころが死んだとかその程度か。
「次泣きたくなったら俺の部屋に来いカス」
「それってどういう事ですか」
「るせぇ、好きな女慰めることくらいやるだろカス」
「…………」
「どうした」
「見ないで下さいぃ……」
奴の顔がアホみたいに赤く染まっていた。
見ないで
[目次]