賭けるものなんてなにもないよ
私達はきっかけを待っていたのかもしれない。
そのきっかけとは例えば、彼がトランプを持ってきて何か賭けようぜ、といったとき。
私は、お互いにお互いが欲しいものを持っていないだろうといった。
すると彼はちょっと呆れた顔をして、そりゃあねぇなと言った。
「少なくとも俺はあるぜ。なぁメフィスト、俺が勝ったらよぉ、俺が死ぬまで、お前の時間とか全部、俺にくれよ」
何を言うのだ、この男は。
「……ならば藤本、私が勝ったら、あなたの死んだ後にあなたの魂、私が貰い受けましょう」
私がそう彼に告げると彼はにやりと笑う。
「聖職者として、悪魔に魂盗られるわけにはいかねぇな」
「こっちは何分聖職者の魂がローリスクで手に入るチャンスなもので」
別に負けたとして、私が彼にやる時間は50年無いかどうかだ。
変わっている愉快な人間に付き合うことほど面白いことはそう無い。
私はつい笑みを浮かべてしまう。あぁ、別にどちらに転んでも愉快だ。
私は彼がこの会話の間にシャッフルして等分しておいたカードを手に取った
賭けるものなんてなにもないよ
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