走る
やっかいな奴につかまった。今日は早く帰りたかったというのに。
「ペトロフ君、よければ今晩食事にでも、」
「すみませんが残業があるので」
先約、はさすがに角が立つので言わない。
「いや、たまには残業なんて――」
まったくしつこい。
上司に対して露骨に嫌な顔をするわけにもいかず(あぁ忌々しい)適当に押し問答を続けていると、突然親しげに肩を抱かれた。
「いっやぁー、お待たせしました、ユーリさん」
「すまない、そしてすまない!」
上司が明らかに狼狽する。それはそうだ。ヒーローが、二人も目の前にいるのだから。しかもプライベートで、である。
「じゃあ行こうか」
そう言ってあくまでもにこやかに私の手を掴んだスカイハイ、もといキース・グッドマンは、早くしなければ芝居が始まってしまうよなどと方便を吐きつつ駆け出す。
それをみたワイルドタイガーはちょっと慌てた後、上司に二言三言何か言って、頭を下げてから、こちらに追いついてきた。
そしてスカイハイに説教を始める。
「お前相変わらず空気読まないな!あそこで俺一人と上司置いてくなよユーリが仕事やりづらくなるだろ!」
「それは申し訳ない……しかしそんなこといったらタイガーく……虎徹くんだってずるい!私が格好良く声をかけるつもりだったのに!」
ぎゃあぎゃあと言い争いをはじめた二人。このままだと拉致が空かないので私は息が切れたふりをして二人に声をかける
「……お二人とも、速いです、ね」
「あ、すまない、つい全力で走ってしまった!大丈夫かい?」
背負おうかい?という彼の申し出は丁重に断る。
「軟弱だなー。俺まだばりばり元気だぜ?」
「あなたが特別なのだと」
そう下らない会話をしながら私達は歩いていきつけの店へ向かった。
走る走る
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つまりこいつらが好きです
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