ほら、みて
「…………なぁ」
「…………」
さっきから何がぐさぐさ刺さってるって、
この、俺の目の前の、小さく丸めた震えた背中。
しかもそれが惚れてる女で今この状況の原因は自分にあるなんてなおさら。
いつもは十分足らずで収束する口喧嘩が、今日は数倍の時間がかかった。
そしてその結果がこれだ。さばさばした性格のこいつだが一回地雷を踏むと長引くことはいやというほど知っている。
「なぁ」
「こんな『不細工』に何の用や」
とげとげしいセリフはさっき俺が言ったことを根にもってである。
……こうなったら最終手段発動やなぁ、と俺は自分の両頬をうにょんとつまんでひっぱる。
「みへみひ」
見てみいと背中に声をかけると奴はちょっと振り向いて俺の顔を見て、
そして小さく噴出した。
「……ばーか」
「実際そうやからなぁ」
「知ってる」
「でもそんな馬鹿でもお前のことが好きなんや」
俺がそういうとそれも分かってると奴は笑う。
その笑顔は俺がこの世で一番好きなもので同時に誰にも見せたくないものでもある。
ほら、みてほら、みて
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夕日に頼まれた気がしないでもない金造。
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