臨む
「クダリ、マルチトレインに挑戦者です。」
「はーい」
クダリを見送ったあと私は少し休憩と椅子に深く沈みこむ。
「あぁ、彼は」
私と瓜二つの容姿なのに私とは全然違う。
もし私が彼なら、彼が私なら、と無意味なことは今まで散々考えてきたのだ。
弟にそのことを言うと彼は笑って、いつものように笑って、じゃあ変わってあげると言った。
「ノボリが疲れちゃったらぼくに言ってよ。いつでも代わって上げる」
その言葉通り彼は時々「私」を肩代わりした。
弟はとてもうまく「私」になったので誰も気が付かなかった。
私と彼は少しずつお互いの境界をあやふやにしていった。
でも私はきっとそういった環境が理想で、そういった立ち位置でこの世の全てに臨みたいのだ。
のぞむ臨む
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