死化粧

これは一体何の冗談だ。

棺の中で昏々と眠っているように見える彼女。

綺麗に化粧をほどこされ、血色のいいように見える顔はまったくもっていつもどおり。

いやむしろいつもより健康的に見えるほどだ。

「友恵」

あぁそうだ彼女は俺の手の届かない遠いところにいってしまったんだ。

まったくこの日が来たら彼女を労おうと、よく頑張ったなとそう言おうと思っていたのに実際こぼれだしそうな言葉は何だ。

(おいていかないでくれ)
(おまえがいなくなったら、おれは、かえでは)

なんて無様だ。

そう思ったときぎゅ、と右手が握られた。

「かえで」
「おかあさん、ねてるの?」
「……あぁ。」

おかあさんはちょっとながくねてるだけなんだ。

だからお父さんがお前を守ってやる。

なぁこれでいいんだろ。友恵。

死化粧をほどこされもう動かないはずの彼女が少しだけ微笑んだ気がした。


死化粧



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