心臓

元来私にその意味での心臓は無いので、時々彼のその心臓を抉って食べてしまいたくなる。

「つまり嫉妬か?」

「そうかもしれませんね」

悪魔にも心臓はありますし、私のこの体にも心臓はありますが、己の物じゃあないですからね。

ひたりと彼の胸に手のひらを押し当てると彼は私の腕を掴む。

「何か聞こえるか?」

「えぇとても健全に脈打っているのが分かります」

どくどくと鳴るその音が私は、私にとって好ましいものなのか妬ましいものなのかわからない。

彼が生きているという事実に私は安心するのに私はその音がいつか止まってしまうのが嫌でしかたがない。

それを彼に告げると彼はしょうがねえなと笑った。

「俺がもし死んだらさぁ、俺の心臓やるよ」

悪魔はゲテモノ好きだろと彼は笑う。どういう意味合いで彼は今の言葉を言ったのか私は掴みきれない。

「今はさぁ、お前だけのもんにはなってやれねぇけど、」

もし俺が死んだら、俺の魂好きにしていいぜ、と彼は呟いた。

私はその声を聞こえなかった事にして、彼に微笑みかけた。

あぁまったく馬鹿馬鹿しい茶番だ。

心臓




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