下唇
がり、と痛そうな音が自分の下唇からした。
「……アマイモン」
「すいません兄上。噛み千切るつもりは無かったんです」
そう言う弟はいつも無表情なので実際にそう思っているのか分からない。
「まったく、人間相手にこんな事をしてみろ、死ぬぞ」
私が軽くそういうと、弟はぎゅうと拳を小さく握る。
兄上以外にこんな事をするなんてあり得ません。兄上と違って。
そう小さく呟いて弟はぎゅうと私を抱きしめた。
(私と違って、ねぇ……)
私は弟の呟きに否定も肯定もせず彼を無感情に抱きしめ返した。
そのときうっかり呟いてしまった奴の名は弟にはしっかり届いていたらしいが、
特に互いに何も言わず互いに何も行動を起こさずしばらく二人でじっとしていた。
(こいつもつくづく報われないな)
誰に似たのかと考えた結果私に似たのだという結論しか出なかった。
あぁまったく難儀な兄弟だと自嘲して無意識にもう何も痕跡のない下唇を舐めた。
下唇下唇
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藤←メフィ←アマという報われない仕様(管理人得)
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