忘れてしまえばいいよ
もし記憶を失くす事ができる薬があるとしたら、私は彼に飲ませてから、自分も飲むだろう。
彼との思い出を覚えているまま過ごすなんて私にはできないのだ。
「どうしたんですか?ユーリさん」
「……いえ。なんでも。」
彼なら、薬を盛られている事を知っても平気で飲み込みそうだ。
「キースさん」
「なんでしょう?」
「あなたは、忘れたい記憶がありますか?」
私が彼にそう問うと彼はううんと少し考えて、そんな記憶は無いと答えた。
「今まで私が見てきたもの、全てが私の宝物だから、とても大事にしたいんだとても!」
「……強い、ですね」
「そんな事はないぞ!」
私はとても弱いだから強くあろうとしているだけだ、と彼は言った。
「いえ、私の方がよっぽど弱い」
そんな彼との記憶を全てなかった事にしたいのだから。自分が弱くなるからと。
本当はきっと、それが一番失くしたくないものなのに。
忘れてしまえばいいよ
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