異常事態
なんたる異常事態だ。と彼から電話が来た。
彼から電話が来るなんて滅多にない事だ。
「どうしたんです?」
「君の誕生日をすっかり忘れてしまっていた。」
「……はぁ?」
素で間の抜けた声が出た。
それだけの為にこの男は、こんな深夜の一時に電話してきたのか。
「今日は、その、君の誕生日だろう?だから何か用意しておきたっかたのだけど。」
「……お気遣いなく」
「そういう訳にはいかない!」
彼が声を荒げる所を初めて見た、いや、聞いた?
「あ、すまない……」
でも、と彼は言った。
「私は、愛する人が生まれて来てくれた日に、いや、生まれてきてくれた事実に感謝したいんだ。私は浅学だから、うまく言えないのだけど」
「…………」
生まれてきてくれてありがとう、だなんて、この二十余年程無縁だった言葉だ。
「だから、その、せめてあなたが生まれた日に、あなたにそれを一番最初に伝えたくて。」
心配せずとも私にそんな事を言う奴は、あなた以外にいないというのに。
というか、敵であるはずのヒーローとこんな温い会話を深夜にしている事自体が、私にとっての異常事態である。
「だから、その」
そんなこっちの心情は露知らず、彼は話を進める。
「明日はいつもの所より、洒落た所に行こう」
「……あなたに全て任せて大丈夫ですか?」
「まったく心配ないぞまったく!期待していてくれ!」
そして彼はおやすみなさいと電話を切った。
…………あまり期待はしないでおこう。
明日は厄介な仕事は入っていないはずだ。ワイルドタイガーが何かを壊したりしない限り。
異常事態異常事態
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キースが「とても異常事態だとても!」
と言ってきたので。
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