声色
声だけで、表情だけで、彼の感情は察せられる。
それは私が彼と特別親しい訳でなく、単純に彼が分かりやすいタイプの人間であるというだけのことだ。
だがしかし最近彼との交流が、というか遭遇が続いている。
少々うっとおしいが別に害は無いし不快でもない。それに何故か憎めないのは彼の生来の性格か。
「最近、ユーリさん明るくなってないか……?」
「どこがっスか」
「表情と声色が少し。」
「さすが先輩伊達にあの人の部下十年以上やってるわけじゃないんスね」
「うるせぇ」
「でもまぁ、上司の気持ちが上向きのほうが仕事やりやすいですしねぇ。」
「まったくだ。やっぱりキースさん様々だな」
「ですねぇ」
今日もいつものように、いやいつもより早く仕事が終わったので、帰路につく。
すると、彼がいた。
「今日も仕事お疲れ!そしてお疲れ様」
「なんでいるんです」
「いや、あなたの部下の方が今日は仕事が早く終わりそうだと教えてくれたので」
誰だそんな事を教えたのは。
「あ、迷惑だっただろうか?」
それならすまないと彼はわたわたと手を振る。
「……いえ、特に予定もないので。」
「なら、よかった」
そうにっこり笑う彼。
ここまでで、彼の裏表の無い、表情と一挙一動と声色と、そしてきっと、彼の感情。
「だからいいですよ、ご一緒しましょう。」
そう私が答えると彼はぱぁっと顔を輝かせる。
「そうか!最近できたカフェがあるのだが、そこの蜂蜜ケーキが美味しくて。」
よければ、と彼は言う。
「わかりました」
男二人でカフェか、とは言わないで置く。彼の沈んだ声は聞きたくない。
じゃあ行こうさっそく行こう!と彼は私の手を掴み歩きだす。
「キースさん!速いです!」
「あぁすまない君と一緒にいると楽しくて」
「……何言ってるんですかあなた」
少しだけ嬉しく思ってしまった自分が、腹立たしい。
声色声色
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きっとこいつらこれでもまだくっついてない
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