記憶
「基本的に楽しかったことしか覚えていないんですよ」
「随分都合のいい記憶力だなオイ」
「失礼ですね、考えてもみてくださいよ、私もう何百年と生きているんですよ?」
そんな何でもかんでお覚えてたら身が持ちませんと紅茶をすするメフィスト。
「屁理屈だろ」
「なにぶん悪魔ですから」
「そーかよ」
呆れた顔をして緑茶をすする藤本。
「なんですかその顔。せっかくいい茶葉取り寄せたんですからもっと有難そうに味わってくださいよ」
「わざわざ取り寄せるなら酒にしろよー」
「感謝してくださいよ」
へいへいありがとうございますと藤本が答え、しばらく無言で茶をすする音のみが響く。
「なぁ」
「なんです」
藤本がぽつりと言う
「今、楽しいか?」
メフィストは驚いた顔をして、すぐ微笑む。
「私はあなたと出会ってから、一日たりとも楽しくない日なんてありません」
さも当たり前だという風なメフィスト
「だから私はあなたと最初に出会った日から今までの事を全て覚えています」
人間一人の一生など、短いのだから、そのくらい訳もない。
「なぁ、メフィスト」
「なんです」
「ありがとな」
記憶記憶
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あま……い?
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