Story


昔々、なんて時代には、いわゆる怪物だとか、人魚だとか、魔法だとか、そんなファンタジーな代物があったらしい。
でもこの俺が生きている時代にそんな物は存在しない。

俺を、除いて。


俺がすごしているこの城には、俺しか居ない。いわゆる隔離というものだ。

俺は、化け物だ。それはこの人間以上の力と、耳の上に生えた角と、何百年も変わらない、そしてこれからも変わらないこの体が証明している。

俺は今日も、一人でこの暗い城にいる。




そんな、いつもと変わらない、今日。
なのに

「うわっ!」
「?」
外から人の声がするなんて今まで無かったことだ。
人自体は、俺に物品を届ける為に時々来る。でも、会話はしない。だから人の声を聞くのは久しぶりだ。

整えられてない、うっそうとした森の様な庭に出る。

「誰だ!」
「いったぁ……」

声の主は、ガキだった。



「……で、お前はなんでここに来た」

たとえ興味半分でそこらを動き回る子供でさえここに来たことはない。

「好奇心」
興味半分だったらしい。

「よく来れたな。親とかに止められただろ」
「親、死んだよ?病気。」
「……それにしたって、ここに来るのはまわりの奴が許さねぇだろ」
「だって僕、追い出されたもん。
お前も病気持ってるかもしれない、それをまわりにうつすかもしれないからって。」

こいつも所謂、『化け物』として追い出された奴だったらしい。

「ねぇお兄ちゃん」
「?」
「お兄ちゃんとても綺麗だね!」

そう言ってにまっと笑ったそいつを、俺は城に置くことにした。

別にほめられたからとかではない、単なる気まぐれで。俺はそもそも病気とかしねぇし。

気に食わなくなったらすぐ殺せばいい。そもそも俺は気が短い、と誰かに言われた気がする。




それからずっと、半世紀、こいつとの日々は続いた。

こいつと一緒にいるにつれ分かったのは、こいつが女だった事。意外にも。

「ねぇねぇ静雄、本読んであげようか?」
「……勝手に読んでろ。」

声が綺麗な事、本を読むのが上手い事。

「静雄静雄、バケツプリン作った」
「……食う」

料理が上手い事。

「静雄、僕ねぇ静雄が好きだよ」

俺が好きらしい事。


分からない事は、こいつがなんで俺のそばにいるかと言う事。

「なんでお前俺が好きなんだ?」
「好きだから」

こいつが俺を好きな理由

「なんで俺の事綺麗なんて言ったんだ?」
「綺麗だと思ったから?」

こいつが俺のことを綺麗だなんて言った理由

「お前名前なんていうんだ?」
「忘れた。」

それに、こいつの名前。
……分かったところで呼んでやんねぇけど。

その他いろいろ。分からない事の方が多い。

でも一番分からないのは、

「静雄、たまには笑いなよ?」
こいつが俺に笑顔を強制してくること
ずっと俺は、こいつを最後で拒絶していた。
こいつは人間だから、化け物の俺のことなんか、分かるはずないと。

でもあいつは傷ついたそぶりもなく、へらへら笑って、ずっと俺のそばにいた。


今日までは。

「いやぁ天寿をまっとうできてよかったと思うよ。それに静雄の膝枕とか初めてだ」

そう言って相変わらず俺の膝枕でへらへら笑う。こんな時なのに。

「……よく笑えるな」

「だって、悲しいのはいやだから。静雄が悲しむのもやだから。静雄が笑ったら、泣くかも」

「お前が死んだらせいせいして笑うかもな」

「違うよ静雄」

そう言ってにへらと笑う

「静雄が今、私の目の前で純粋に楽しそうに笑ってくれれば、いいんだよ。私は君の笑顔が見たい。あー静雄が私の前で笑ってくれなかったのは心残りかな。静雄が笑ってくれないと死ねないかも」


こいつは、何で、死ぬ、間際に、

こいつがずっと生きるなら、俺は一生笑わねぇ。

「……なぁ訊いていいか?」

「何?」
「なんで俺が好きなんだ?」
「綺麗だから、優しいから」
「なんで俺が優しいんだ?」
「私を拾って置いてくれて不自由なく生活させてくれた」
「なんで俺が綺麗なんだ?」
「その金の髪が綺麗、その瞳が綺麗、その角も立派。綺麗。」
「なんで名前教えてくれなかったんだ?」
「教えたところで静雄は呼んでくれかったでしょ?」
「…………なぁ、お前の名前は?」

訊くと、にっこり笑い、口を開きかけ――――――







「笑えっつった理由、聞きそびれたな……」
どんどん冷たくなっていくこいつ。
「名前も、聞けなかったな……」
こいつの頬にぱたぱたと雫が落ちる。認めたかないけど俺の涙が。
「笑える……わけ……ねぇだろ……お前なんて……」
俺が一番恐れた感情が。俺が誰かの為に泣くなんて。

「お前なんて……」

大『   』だ。




それからまた、数百年も、数千年も経った、のかもしれない。わからない。
あいつが居た五十数年の方がよっぽど時間の感覚ははっきりしていた

もしあいつにまた会えるなら今度は何をしようか。
それを考えつつ、俺は今日も生きている。


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スペクタクルP/the_beastから着想。ありがとうございます。
パラレルなので時代背景は何も考えてませんご了承ください
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