21:41 ちょっと特殊な葉隠ふたつ
▼体験版的?葉隠死後と河童の手のミイラ
葉隠君が死んでしまった。
たった数日の縁だったけれど私は彼を憎からず思ってしまった。くるくるとよく動く彼の表情や、瞳や、仕草に私は魅入られてしまったのだ。
でもそれは、今となっては昔のことだ。
綿が偏ってくたびれたぬいぐるみのように壁に寄りかかる葉隠君の手首をとった。
それは彼の持っていたまがい物の水晶玉のように冷たくて重く、私の手から零れ落ちそうな代物だった。
彼女の部屋には怪しげな小瓶に入った薬品が沢山ある。いいにおいのする薬草も。
薬草のほうは趣味だけど、と彼女は言う。
しかし僕は机の上に無造作に転がっていたものをまともに見てしまった。
それはひからびた右手だった。
しかし彼女は平然としている
「ねぇ苗木君、河童の手のミイラってあるじゃない?」
まさかこれがそうだというのだろうか。でも僕には人の手にしか見えなかった。
彼女の部屋でこれだけが胡散臭いようなまがまがしいオーラを放っている。
そういうものはどちらかといえば彼の管轄じゃないだろうか。
もう死んでしまった仲間――葉隠君の顔を、僕は思い浮かべた。
▼葉隠君どうしてお前はそんなに泣きそうな顔をするんだい
殺されるとは一体どんな感覚だろう。おなかを刺されたり、頭を殴られたり、首を絞められたり。とても痛い。それはそうだ。
全身を貫かれるというのもきっと、狂ってしまいそうなくらいに痛いのだろう。
いや、違う、私が言いたいのはそれじゃなくて。
「きっと殺された皆は、まさか自分があの子に殺されるなんて思いもよらなかったんだろうなって。ほら、特に不二咲君や山田君はさぁ、ほとんど全面的に信頼していた相手に殺された訳じゃない。それは一種絶望的なことだけど、でもある意味それはとても幸せな気がするんだ。だって嫌いな奴に殺されることに比べたらさぁ」
だから私、死ぬならお前の手にかかって死にたい。
「……ほんとうに勝手なことを言っているのは分かっているんだ。けれどこれから私はもっと自分本位なことを言うよ。葉隠が私を殺してもいいけれど、そのあとちゃんとオシオキされて死んで欲しい。いや、別に裁かれろと言っているわけじゃないんだ。私はおそらく遠まわしに心中したいんだ。だって、別に好きでもない十神あたりと一緒に死んだって嬉しくないもの。けれど私は舞園さんみたいに手がかりを自分からは残さない。ダイイングメッセージなどを下手に残して、お前に消されたらとても悲しいもの。ねぇ、葉隠。」
彼の震える手に握られたナイフが、ぎらりと光った。