12:29 葉隠と超高校級の葬儀屋ちゃん


「ひげを剃ればもう少し若くなるんじゃないの」
「いや、こんな格好してる時点で無理だべ」
葉隠は自分のあごを撫でながら、もう片方の手で腹巻をつまむ。
「じゃあそれも取れば?」
「何言ってるんだべ!いろいろ入るから便利なんだぞ!」
「パスポートとか?」
「よくわかったな……!もしかして実はエスパーだったんか!?」
舞園ちゃんじゃあるまいし、と私は呆れてみせる。
「でも今はそんなの入れる必要ないじゃない」
「だっていつ出られるかわかんねーだろ?」
格好を変えるというのはどう考えても無理なのか。というかあまりそういったことに執着しない人ならば、このふざけたドレッドヘアーをさっさとストレートにして借金取りから逃げてるだろうし。実際。
「じゃあひげだけでも剃りなよ」
「そこで話を最初に戻してくるんか」
「妥協点を最初から出してるんじゃない。石丸君にもそんなこと言われてたじゃない。ひげ剃れって」
「石丸っちには高校生らしい格好をしろと言われただけであって、ひげを剃れとは言われてねえべ?」
「さっきまでの私と同じこと言ってるじゃない、石丸君」
じり、と葉隠は私から距離をとる。しかしそちらは壁際である。入り口側に私がいるから仕方ないけど。
「じ、実際よ、俺ひげ伸びるの早いから朝剃ってももう昼には元通りなんだべ」
「じゃあこまめに剃れば?」
めんどくさいべ!とすがすがしく言い切られた。胸を張るところではないと私は思う。
「面倒くさいなら私が剃ってあげようか」
私が椅子ごと距離をつめると葉隠は焦って身をひいた。もう壁に背中がくっついている。
「いかがわしいこと考えない自信がねえべ!」
成人が未成年に手を出したら犯罪だろ、という理屈で彼はいつも私から逃げている。
面倒くさがりここに極まれり。

「じゃあ葉隠」
壁に背中をぴったりくっつけていた彼に私は人差し指を一本突きつける。
「もしあなたが死んだら私がきっちりひげ剃って小ぎれいな格好にしてあげる。特別にボランティアでいいよ」
「……前に仕事以外で死体にも人間にも触るのは嫌だっつってたろ。」
「それはそうだけど、けど葉隠にはそれくらいしてやりたいよ、私。そうじゃなきゃ部屋にも入れないしひげ剃ってやろうかなんて申し出ない。馬鹿じゃないの」
がたん、と葉隠は突然立ち上がった。私はすばやくドアをふさぐ。

「葉隠がもし無事に出られなかったら私がちゃんときれいにしてあげるから安心してね。ある程度ならなんとかなるけどどんな死に方するにせよ、できれば顔は守ってほしいわ」
だけど無事二人とも出られたら、私が葉隠を一生養うから。


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