22:18 歌プリれいちゃんお炊きAGE(夢主≠春ちゃん)


(1)「寿君」
ことぶきくん。彼女は僕をそう呼んでいる。昔はれいちゃん、とそう呼んでくれたのに。
時間の流れに一抹の寂しさを覚えないことはないけれど、彼女に名前を呼ばれるのは、どんな形であれ、嬉しいものだ。
流行の色が乗った彼女の唇が、僕のかたちに蠢くのを見るのがたまらなく好きだ。
「寿君、ねぇ、聞いてる?」
もちろん聞いているとも。ところで、不機嫌なときの君の顔は年齢一桁のときから変わらないね。好きだよ。言わないけど。
彼女は自分の瞳よりも黒いコーヒーをすすった。僕はカフェオレ。


(2)
暑いねぇ、と僕が前に言ったら彼女は、彼女の実家の物置に眠っていたのであろうビニールプールを持ってきた。ベランダで膨らませて、冷たい水を満々と注ぐと、彼女は満足そうな顔をする。椅子をベランダぎりぎりまで引っ張ってきて、足首まで水につかる。
そこの冷たいアイスクリームなんてあればもう完璧だ。
彼女は幸せだと言った。それなら僕は、さらに素敵に幸せだ。


(3)
「お疲れ様、寿君」
家に来た彼女の第一声はいつもそれだ。男の子のような格好をしている。
僕らにやましいことなんて、何もないのに。
(でもそれが彼女なりの気の使い方であることだとか、それだけ僕のことを大事に思っていることだとかを僕はちゃあんと知っている。)
「海へ行きたい」
今すぐに? 今すぐに。
「寿君、家でゆっくりしなくていいの?」
「大丈夫!」
どん、と胸をこぶしで叩いてみせる。どんな海でもいいけど、どうせならば砂浜がよい。もちろん君が良ければだけど。
「私の車でいこう」
彼女は車のキィをちゃらりとならした。

(4)
僕はちらちらと、運転席の彼女の横顔を盗み見る。
ファンも、仲間たちも、ほとんどみんな僕を名前で呼ぶ。苗字呼びで、だけれど親密さの含まれた君付けがよそよそしさを払拭している、彼女の呼ぶ声は、特別なのだ。
「寿君、もうすぐ海だよ」


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