19:31 笠松さんと梅雨入り


馴染みのニュース番組が、そういえば梅雨入りを告げていた気がする。けれど。
帰りたくなくなっちゃうわ。私はうんざりするような灰色のカーテンがひかれた外を見る。時間は遅い。だんだんと薄暗くなっていく。
無造作に積まれた昨年までの資料は一向減る機会がない。
うんざりと私がひとつ伸びをしたところで、廊下から何かが床を打つ、からん、という軽い音がした。
私が生徒会室の扉を開けると、倒れたビニール傘と、それの持ち主らしき同じクラスの彼が、私の登場に立ちすくんでいた。
「笠松君」
彼は呼びかけに一瞬肩をふるわせたけれど、ん、とそれだけの音を発して私にその傘を押し付けた。
「やるよ」
私は礼を言うより先に、待って、と彼を引き止めた。なにぶん彼がすぐに去ろうとしていたから。
お礼を言って私は彼になお、話しかける。
「ね、一緒に帰らない」
危ないから、とか暗いから、とか男が女を誘う口実ならあるのに女が男を誘う口実の少ないこと。
(下心が透けて見えるじゃない)
笠松君が女の子を得意じゃないのは知っている。積極的すぎるのはもしかしなくても不得手かしら。でも、私はどうしたって彼が好きなのだ。


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