21:25 羊羹くらいのナマモノ(平和の文学さん)夢もどき2つ


▼家に帰ったら部屋干ししている洗濯物の間に首吊り死体がぶら下がっていた。
よく見ると可愛らしい顔立ちの少女であった。
しかし話に聞いている首吊り死体と違って安らかな顔だしやけに身綺麗だ。
もしかしたらこの世のものではないのかもしれない。まいったな、と僕は自分の頭を掻いた。
どうにも現実離れしている。しかもあんまり怖くない。
『死神』という以前つけられたあだ名が、嘘から出た真になってしまうのだろうか。

しかし僕の視線はあまりに不躾だった。てっきり生命活動を停止したものだと思っていた彼女が目を開いたのだ。
そして真正面にいた僕と目があった。僕は思わず静止する。
「おかまいなく」
澄んだその声の主が彼女だと気がつくのに少しかかった。
そうか、それならいいや、ご飯を食べよう。ひどく腹が減っている。



この前すれ違った小学生の一団が、やたらと"彼女募集中"と連呼していた。いつのまに日本の小学生の意識はそんなに高くなってしまったのだろうと驚いたのだがよくよく聞いてみるとどうやら"フードが裏返しになっている現象"を指す言葉らしい。
ちなみに同じような言葉に"彼氏募集中"というものがあるらしい。
僕の彼女のパーカーのフードがその、"彼氏募集中"状態になっていた。
僕は彼女の読書の邪魔をしないようそっと直した、つもりだけれど彼女は「ありがとう」と本から顔を上げずに言った。彼女は無難なカジュアル系の服しか身に着けない。
けれどもっと鮮やかな色が彼女に似合うのではないかと僕は思う。
今度試しにこっそりと見立ててみようか。
彼女が僕のセンスを信じてくれるかはわからないけれど。
どうせならまだ遠い春の服がいいだろうか。
願わくば、その服を着た彼女と町を歩けるよう。
太宰に夏用の着物を送った友人の、その気持ちが少しわかったように思う。


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