17:29 まほろの行多二話(腐)


▼がぶり。
そんなオトマトペが付きそうなほど強く行天は多田の小指を噛んだ。
声も上げずに悶絶する多田を行天は楽しそうに見ている。
「ね、痛い?」
「馬鹿じゃねぇのか!」
多田の叫びに行天は答えない。多田は自分の小指を見つめる。赤い噛み痕はくっきりと存在を主張している。
「ねぇ、おそろい」
「……それなら逆の手だろう」
多田の言葉に行天はあぁ、と気の抜けた肯定を返した。
「んじゃやり直し」
「やり直すな」
多田は慌てて行天の口元から自分の指を死守しようとした。


▼軽トラの中は小さな密室だ。
なぜか今日、車内で行天は煙草を吸わない。それに気がついた帰り道は自分も煙草を吸いづらくて多田は自分の空っぽの唇を弄んだ。
この冬一番の寒さが連続で続くような季節である。窓は締め切られて空気は熱く淀んでいる。
「また体でも鍛えるのか」
信号が赤い手持ち無沙汰に、多田は行天にそう訊いた。
「どうして?」
「どうして、って、だって今日吸ってねぇだろ、煙草」
多田は白い箱を行天に向かって放り投げた。前を向きながら投げた為見当違いの方向に飛んだ箱を行天はうまく受け止める。
「なんとなく。ねぇ多田。この中ってさ、密室だよね」
「それがどうした」
「いや、ね。」
行天はうれしそうに煙草を咥えた。窓を開けようとした多田を押しとめる。
車内の風向きは多田のほうへ流れる。
「煙い!」
多田の網膜が刺激される。青信号が少しだけ滲む。
「今ここで俺とまほろのど真ん中で心中したくなかったら窓を開けろ行天!」
「別にそれでも俺はいいけど」
そう言いながら行天は窓を開けた。



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