14:31 日溜まりが彼と彼女を照らしていた(墺普日と一般女性)



ローデリヒ
じゃくじゃくと口を動かしながら彼女はピアノを引いていた
傍らの机にはつやつやと赤かったであろう果実、の成れの果てが転がっており彼女は今だ口を牛のように動かしていた
思わずローデリヒは眉間に皺をよせる
彼女の弾くピアノの音に釣られてきてみればこれだ
もっとも潔癖症で口うるさい彼でなくてもこんな光景は異様に思えるだろう
「何をやっているんです、はしたない」
彼女はまるで答えず弾き慣れたその曲を演奏し続けようとした
だが程なくして
「ほら見なさい、そんなことをしているから」
いつもの彼女が間違えるはずもない箇所の音程が外れたのを彼は聞き逃さなかった
彼女はローデリヒをじっと見つめたあと、ごくんと喉を動かしてからまた最初から弾き直すべく鍵盤に指をすべらせた
ローデリヒは一つ溜め息をつくと傍らの椅子に腰掛け、少しだけ嫌そうな顔で転がっている林檎の芯を見つめた

ギルベルト
「まるでこの屋敷はかのお伽噺に出てくる青髭公のものみたいですね」
馴染みのメイドのその言葉に赤い目が興味深そうに細められた
「こんなに広くてお部屋がいっぱいあってはとてもとてもすべての部屋を綺麗に保つなんて!」
蓮っ葉な物言いをするその女をギルベルトは気に入っていた
昔の幼馴染みを連想させるのだがかといって別に不快ではない
「だから俺様もこうして掃除してるじゃねえか」
「いいえご主人様はそんなことしなくてよいのです 私どもの仕事を奪わないでくださいまし」
じゃあどうすればいいんだよ、とギルベルトはふてくされる
簡単なことです。そう彼女は答えた。
「おとうとぎみが、もうすぐかえってくるのですから」
熱いコーヒーでも淹れて差し上げればよいのです

本田菊
「今年の桜は遅いと思っていましたが」
少しずつほころぶ蕾を見上げると、つい菊の表情もゆるむ
もう飽きるほど見ているはずであるのに毎年この時期になるの心がそわそわと浮き立つ
「春ですねえ、本田先生」
和菓子屋の袋を下げた彼女がいつのまにか縁側に座っていた
「上がるときは玄関からにしてくださいよ」
「わかっています」
少しでも早くお届けしたかったもので、とその袋を菊に手渡し彼女は玄関へと回った。からからと扉が開く音がして彼女のかすかな足音が近くなる
桜が咲いたら、一緒に花見にでも行こう。恒例になりつつあるそれの計画を練りつつ菊は湯を沸かそうと台所へ向かった


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