60000kikaku* | ナノ

アレン先生となまえ先生は、デキていると思うの。

えっ、ほんと!?

だって見たもん、この前休み時間に音楽室に行ったらね、2人で仲良さそうにしてた。

オレも見た、アレン先生の手帳に、なまえ先生の写真が入ってた。

ええ!?それってアレン先生がなまえ先生のことすきってこと!?

アレン先生の片思い?

かわいそ〜。

みんなで応援してあげようよ!

でも、どうやって?

なまえ先生の机にね、アレン先生からのお手紙をこっそり入れるの。

放課後に呼び出して、2人っきりにしてあげるの。

そしたら、アレン先生、こくはくできるね!

アレン先生あての手紙もつくろうぜ!


「なるほどねー。そんな話してるってことは、4班のみんなはもう発表できるってことかな?」

「「「………っ!!!」」」

「じゃあ早速発表してもらおうかな、『地球環境を守るために僕たちができること』、4班さんからどーぞ」

「「「……すみませんでした…!!」」」

僕が笑顔で指名した彼らは、全身に変な汗をかいて、全員が僕から目を逸らしていた。大人げなくて結構。いくら小学生でも、授業に関係ない話を延々繰り返す君達がいけないんです。反省しなさい。




***

「あはははは!!容赦ないなぁ〜アレン先生は」
「笑いごとじゃないですよ全く…勝手に恋仲に仕立て上げられちゃってるんですよ?僕ら」
「あははー、いいじゃない、若い子には必要な話題だよ」
「またそうやって呑気なこと言って…教科担当だからって甘く見てるとそのうち苦労しますよ」
半ばあきれながら焼き鳥を摘まむと、彼女は「大目に見てあげなよー、カワイイ生徒達なんでしょ?」と笑って、本日3杯目のグラスを空にした。

僕となまえは大学時代からの知り合いで、同じ小学校に勤務している同期。学級担任(要するに、クラスを受け持つ教師)の僕と、この学校で音楽を担当しているなまえは、同じ大学出身で同期ということもあり、生徒からよく恋人ネタで取り上げられることは別段珍しいことではない。実際こうしてよく2人で飲みに行くほど、仲は良いのだが。

「いいなぁ学担楽しそうで」
「うん、まぁ、賑やかですけどね」
「で?わたしの写真持ってるっていうのはホントなの?」
「大学の卒業式に2人で撮ったやつなら挟んでたかも…」
「うわー、なんかきもーい」
「人聞き悪いリアクション取らないでくださいよ、なまえだって同じ写真持ってるくせに」
「わたしは手帳に挟んだりしてないもん、ちゃんとアルバムに綴じてあるもん」
「なんでそういうとこだけ女子力発揮してるんですか」
「だけって何よ、余すとこなく女子力使ってるもん。すみませーん、たこわさひとつくださーい」
「言ったそばからオヤジっぽいもの頼まないでください」
「アレンたこわさいらないの?」
「……いる。」

…自分でも、仲は良いほうだと思う。ただこれを男女の関係に進めるためには、もうしばらく時間と手間がかかりそうだ。

僕の目指す道のりは、険しく遠い。





***

キーンコーン…
「きりーつ、れーい」
「ありがとーございましたー!」

がたがたっ、一気にざわつく教室の音を聞きながら、僕はゆっくりと教科書を閉じた。廊下からは給食の匂い。机をくっつけて給食の準備を着々と進める生徒達。お腹空いたなー。
「……ん?」
机の引き出しに、見覚えのない可愛らしい封筒。中身もこれまた可愛らしい便箋で、『今日の放課後、音楽室で待ってます。なまえより(ハート)』の文字。
…ああ、例の作戦が実行されたらしい。道理で4班の子達がやけにそわそわしてると思ったら、これか。ていうか、今日は放課後職員会議だっつの。ていうかそれ以前に、先生の引き出しを勝手に開けるな。



「手紙?ああ、もらったよー、これでしょ?」
職員会議が終わった後、なまえに例の手紙について尋ねた。案の定、僕のとまったく同じファンシーな封筒の手紙が、彼女の元にも届いていたらしい。さすが小学生、同じ便箋だなんて、証拠隠ぺいも何もあったものじゃない。
「『アレン先生からだよ!』って、ご丁寧に一言いただきましたよ」
「まったく、あの子たちは…!」
頭を抱える僕を尻目に、くすくすと実に楽しげに笑ったなまえ。こっちはそろそろ笑いごとじゃないんですけど。
「いいねぇ、生徒達に愛され応援され。最高じゃない」
「良くないです、いくら子どもだからってやっていいこととそうでないことがあります…」
頭を抱える僕の傍らで、なまえは尚も笑い続ける。まったく、人の気も知らないでこの人は。横目でキッと睨んでも、彼女は笑いの余韻を残しながら机に向かって淡々と業務に勤しんでいた。
ちょうどそのタイミングで、下校を知らせる放送がBGMとともに流れた。



自分の業務を済ませる頃にはすっかり日も傾いていた。ふ、と隣のデスクを見遣ると、さりげなく置かれていた、見覚えのあるマグカップ。まだ中身のコーヒーが残っているところから、なまえもまだ帰っていなかったらしい。だけど肝心の彼女の姿が見当たらない。いつの間に席を外していたんだろう。

…あ、戸締まり、行こうかな。


校舎にわずかに残っている生徒に下校するよう声をかけながら、各教室の戸締まりに回った。
段々と静けさを纏い始める校舎。オレンジとも赤とも言い難い、絶妙な夕暮れの茜色。校舎全体がこの色に染まるこの時間帯が、僕は密かに好きだったりする。

茜色のグラウンド、壁、窓、机、黒板。
綺麗なのだ、とても。

それはただの校舎には見えなくて、どこか神秘的で、儚くて、この景色を僕一人で見るのは、何だかひどく勿体無い気がしてしまう。

どうせなら、一緒に見るのは、彼女がいい。
そう願ってしまうのは、この廊下の突き当たりにきっと彼女がいることを、僕は知っていたから。


「今日は、弾かないんですか?」

音楽室の扉を静かに開けて、グランドピアノの前に座る彼女に、声をかけた。なまえは一瞬肩を揺らして、それから身体を傾けながら扉の前に立つ僕を見やった。それもとても驚いた表情で見るものだから、僕は思わずくすりと笑ってしまった。
「…びっくりしたー、音もなく入ってこないでよ」
「すみません、戸締まりのついでに、ここにいるかなと思って」
ゆっくりと彼女の元に近づくと、彼女の手元にあったのは、先程の子どもらしい絵柄の手紙だった。
「…ほんと可愛いよねぇ、わたし達をくっつけようと健気に作ってくれたんだよね」
手紙を眺め、何故かほんわかと実に幸せそうに笑ったなまえに、「…その子どもらしさが、逆に性質悪いですよ」と苦笑してみせた僕。

「でも、アレンはちゃんと来てくれたじゃない」


『今日の放課後、音楽室で待ってます。』


なまえ宛ての手紙にも、今僕の手にある僕宛ての手紙にも、まったく同じ文面。お互い確実に音楽室で会えるように、わざわざ念入りに仕向けられたもの。不覚にも、僕と彼女はそれに従って動いてしまっていたのだ。今その事実に気付いた僕の表情を見て、彼女はまたくすくすと笑った。
「…不可抗力でしょ、仕事に息詰まるといつもここに来てピアノ弾いてるじゃないですか」
「あはは、そうだねぇ」
そう言って綺麗に笑う彼女。本当に、よく笑う人だ。

…学生時代から、僕は彼女のピアノを聴くのが好きだった。僕は音楽の知識なんてまったくないから色んな違いはよく分からないけど、彼女が弾いているというその事実が何よりも僕を幸せな気持ちにさせるものだった。こんなことを言えば、彼女はまた笑って僕をからかうだろうから、決して口には出さないけれど。

「…ねぇ、アレン」
ポーン、と、鍵盤の音が小さく響く。ああ、この鍵盤にそっと触れる彼女の手が、僕は好きだ。
その手に、触れてみたいと、いつも思う。
触れてみたい、触れたら、彼女は、どんな反応をするだろうか。

「昔から、アレンがわたしのピアノを聴いている時って、いつも穏やかな空気になるの。不思議だよねぇ」
「…そう、かな」
ゆっくりと、彼女がピアノを弾く。せわしなく動く鍵盤と、それに見合わない、柔らかくて優しい旋律。聴くだけでは見えない影の努力と、柔らかい物腰。まるで彼女の姿そのものを物語っているようだった。



なまえ、僕は、



「、……アレン?」

微かな余韻を残して、ピアノの音が止んだ。どうして、なんて、分かりきっている。僕がこの手で、彼女の手を握ったから。動くことを止められた彼女の手は、力をふっと抜いて僕の手の中におさまっていた。
不思議そうに僕を見上げる彼女の顔は、夕焼けを浴びて、茜色だった。

ああ、何だか、
やっと、前に進めそうだ。


「…ずっと、言いたかったことが、あるんです」
「…アレン、どうしよう、」
「へ、」
「分かっちゃった、アレンの言いたいこと」

えへへ、と目を細めた、茜色の笑顔。僕はどうしようもなく恥ずかしくなって、だけど、この手を離したくはなかった。離すつもりもなかった。このまま同じ茜色に溶けてしまってもいいと思った。彼女と一緒なら、もう何も怖くないのだ。

「…なら、話は早いですね」
「嘘、ごめん、ちゃんと言って」
「嫌ですよ、もう伝わったんでしょ」
「えー、アレンの口からちゃんと聞きたいよ」
「…しょうがないなぁ」

僕は小さく笑って、それからゆっくりと頭を屈ませて、

彼女に、口づけた。




「好き」の2文字は、じんわりと茜色に溶けた。




茜色ラブレター


(アレン先生!昨日はどうだった?)
(ちゃんとなまえ先生とおはなしできた?)
(…子どもにはまだ早い話ですよ)
(勿体ぶるなよー!ちゅーしたんだろー!?)
(…はい後藤くん、今日の算数当てますから)
(先生きたねぇ!)







**************

*パンダさまリクエスト*
「先生同士、アレン先生と放課後学校に残る」

リクエストは「職員室に残る」だったのですが、気付いたら音楽室に移動してました。女の子を音楽の先生なんかにしちゃうからこんなことに…。小学校の先生にして、子ども達にキューピット役をやらせたかったのです。アレン先生は若干子どもに振り回されてほしかったの。
パンダさん、こんな感じになりましたが、いかがでしょう…?遅くなってすみません。リクエストありがとうございました◎

2012.10.28*

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