60000kikaku* | ナノ


最近、アレンの様子が妙だ。

「なぁアレン、A社から営業部んとこに新企画案回ってきてんだけど、これお前担当じゃねぇの?」
「…ああ、はい、そうです、貸してくださいそれ」
顔を向けず、ただぶっきらぼうに差し出された右手に資料を明け渡すと、これまたぶっきらぼうにそれをぺいっとデスクに追いやった。ちょ、おま、オレがわざわざ企画開発部まで足を運んで来てやったっつうのに何だそのぞんざいな扱いは。ムカ、とこめかみに力が入るも、アレンはお得意のポーカーフェイスを発動し、淡々とデスクワークに勤しむばかりだった。
しかし、長い付き合いのオレの前では、こいつのポーカーフェイスなんてあってないようなモンだ。感情が丸見えデスヨ。まぁなまえちゃんの影響ですっかり感情豊かになったってのも大きいけども。
「…あのさぁ、もしかしてなまえちゃんと何かあったんさ?」
「は?何言ってるんですかそんなわけないじゃないですか」
早口でそう捲し立てるアレンの瞳が、一瞬揺らいだ。何だかなー、こんなに分かりやすい奴になるなんてなぁ。逆に少し笑えてくる。
「いや、ならどうしてそんなイラついてるんさ最近」
「別にイラついてなんかいませんよ」
「ふぅん…」
嘘つけ、めっちゃイラついてんじゃん。さっきからオレと目ぇ合わせねぇし、返答もそっけないし。
なまえちゃんと付き合い始めてから、良い意味でもポーカーフェイスさが抜けてきたなと思ってたけど、ここまであからさまに感情的になっているアレンも珍しい。こいつの感情をここまで引っ掻き回す要因なんて、おおかたなまえちゃん絡みだろう。ていうかそれ以外の要因でこいつが感情的になったところを未だかつて見たことがない。それほどまでに、アレンにとって彼女の存在は大きいものなのだろう。

アレンがここまで動揺しているのは、恐らく『あいつ』の存在が原因だろう。オレが横目でその姿を確認すると、ここの冷やかさとは打ってかわって、無駄に花を飛ばして尻尾振ってやがる。…なまえちゃんの横で。
まったく、見ているこっちの方が心穏やかじゃいられねぇ。とばっちりを食らう身にもなってほしいさ。めっちゃやりづれぇ。ていうか居づれぇここ。

「ねぇなまえさん、朝から何イラついてるんすかねーあの人」

…お前のせいだろ、仲村。


 あわせいと*5




ここ最近のアレンの苛々っぷりは、紛れもなくこの男が原因であると断言できる。彼が入社してから何となーく嫌な予感がしたオレは、「横取りされるぞ」と最初にアレンをつついて脅した。漠然とした不安要素をアレンに知らしめたのは確かにオレなのだが、まさかここまでしつこくアプローチかましてくる厄介者だったとは。
「てっきり、あの飲み会の一件で身を引くと思ったんだけどなぁ」
「何の話ですか、ていうかいつまでここにいるんですかラビは。また営業部からどやされますよ」
「んあ、ダイジョーブさ。営業で信用と実績があるから」
「ううわ、嫌味ったらしい男ですね…」
「んな苦虫噛んだような顔すんなさー。ただオレはアレンを心配してるだけだっつーのに」
「君に心配されるほど落ちぶれちゃいませんよ」
「精一杯の強がり発言をどーも。でも、大事な彼女にまで心配かけるようじゃ駄目だろ」
「…はい?」
「なまえちゃんの前で、仲村とビミョーな空気作ってみせちゃったんだろ?『何事だろう…?』みたいな顔してたさなまえちゃん」
「…何で、そのこと…」
「まぁ、当の本人はまだ真相には気付いてないみたいだけどな、つーかどんだけ疎いのあの子。…仲村、あいつ相当厄介だし、しつこいと思うさ」
「…ラビに言われなくても、そんなこと分かってますよ」
お、核心に触れてきた。
「…僕だって、いくら後輩だからってあそこまでされたら黙ってられませんよ。仕事に私情挟みたくはないし、ましてやそこに部外者を巻き込んでどうこうなるなんて、実に釈然としません」
「同じ職場で彼女作った奴が言う台詞かよそれ。思いっきり私情挟んでんじゃん」
「……うるさいな、何なんですかさっきから、僕にどうしろって言うんですか」
ああもう、と、アレンは頭を押さえて掻き乱した。
「どうしろ、なんて、そんなん自分で考えるしかねぇだろ。なまえちゃんの彼氏はお前しかいねぇんだから」
そうじゃなきゃ、あの無駄に飛び交ってる花の対処は誰がやるっつうんさ。正直オレから見てもうざったい。逆になまえちゃんはよく平気な顔で相手してるなと思う。

ブルル、と胸ポケットの携帯が震えだした。
「あ、上司からの呼び出し。じゃあオレ行くさ、後はまぁ、何とかガンバレ。」
ぽん、とアレンの肩に手を置いて、オレは企画開発部を通り抜けた。横目であいつに睨みをきかせながら。

「…ねぇなまえさん、あのオレンジ色の髪の人って、何でしょっちゅううちの部に来るんすか」
「ラビ先輩?さぁ…でもウォーカー先輩と仲良いからね」
「ふーん、俺あの人もちょっと苦手っす」
「仲村くんはもうちょっと色んな人と交流した方がいいと思うよ」
「えー、だって俺、なまえさんがいれば十分っすもん」
「それじゃ困るってば…」


…おーいアレン、さっさとあいつをどうにかしろ、うざすぎる!




外野の一見解
- 5 -


[*prev] | [next#]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -