60000kikaku* | ナノ



小さな頃からのお気に入りの場所がある。

駅から少し離れたところにある、色とりどりのお花や鉢植えが並ぶ小さな花屋さん。
学校帰りにいつも通るその場所は、子どもながら胸をときめかせる場所だった。母への贈り物に、初めて自分のお金で花を買ったのも、ここだった。しょっちゅう花を見に来るわたしはすっかり顔馴染みになり、ランドセルの肩ひもを握りしめてお店の中を覗き込めば、店長のコムイさんがメガネ越しに「いらっしゃい、なまえちゃん」って、笑って出迎えてくれた。


きっかけは、些細な光景だった。

ちょうどわたしが高校最初の春休みを迎えた頃。祖母の誕生日にと花のプレゼントを選びにお店を訪れると、昔馴染みのはずのそこに見たことのない姿があった。

両手いっぱいのチューリップを抱え、幸せそうに微笑む、シルバーホワイトの髪の男のひと。

年齢はきっと、コムイさんよりも若くて、わたしよりも大人なひと。

一番に目を惹くその艶髪に負けないくらいの、透き通った肌に、一筋の赤いライン。


16歳のわたしには、彼の姿はあまりに美しく、あまりにも儚げに見えた。
雪でできた飾りのように、きっと、触れたら溶けて消えてしまうのだろうと思った。


彼に見惚れるあまり、わたしはその場から動けなくなった。

はた、と目が合った瞬間、激しく脈打つわたしの心臓をよそに、彼は先程花に向けていたような微笑みはなく、ただ淡々と「何かお探しですか」と、わたしに問いかけた。


「ここでバイトさせてください」

あの時わたしの口がそう言い放ったのは、彼、アレンさんと出会ったからだと思う。








それから早半年が過ぎたある日の午後。
今日もわたしはこの花屋さんで、まるでオジギソウのようにぺこりと頭を下げている。
腕を組み、いたくご立腹のアレンさんに向かって。

「あのさ、何回言ったら分かるの?」
「…す、すみません…」
「謝るよりも先に行動で示してほしいんだけど。水替えするのはいいけど、水量が多すぎなんだってば。あげればいいってもんじゃないでしょ?あと、これは日光の当たる場所に置く!こっちのは直射日光を避ける!葉が黒くなるって前も言ったよね?」
「うー…すみません…」
華やかな店内に似合わず、アレンさんの罵声が飛び交う。そうさせてるのは紛れもなくわたしなのだが。
「まぁまぁアレンくん、そうカリカリしないの。なまえちゃんだって悪気があるわけじゃないんだから」
「悪気があるならぶん殴ってます。コムイさんがそんな甘いこと言ってるからいつまで経っても仕事覚えないんですよ」
ぐさ、と言葉の凶器がわたしの心臓に刺さった。
確かにアレンさんのおっしゃる通り、ちっとも仕事覚えられないのはわたしだ。花屋さんの仕事がこんなにハードで肉体労働も多くて厳しいものだったなんて知らなかった…。
「だって、ねぇ、ちっちゃい頃からの常連さんだからさー、つい甘やかしたくなっちゃうんだよねー」
コムイさんはへらっと笑いながら子どもを可愛がるようにわたしの頭を撫でる。何だか気まずくてわたしは固まったままされるがまま。アレンさんはそれを見て、ため息をついてあきれ顔だ。
「仕事に私情をはさまないでください、じゃないといつまで経っても彼女が成長しないでしょう」
「あ、なまえちゃん明日お母さんの誕生日でしょ?さっき仕入れてきたバラがすっごい綺麗だからさ、お母さんに持っていってあげなよ」
「ちょっとコムイさん、まだ話終わってないんですけど」
コムイさんにぐいぐい引っ張られて、アレンさんのお説教は強制終了となった。何だか申し訳なくてちらっとアレンさんを見ると、案の定、深いため息をついて眉間に皺を寄せていた。
…やっぱり、わたしはアレンさんにとって厄介者でしかないようだ。地味に凹むなぁ。
ラッピング用のリボンを切りながら、わたしは自分の無能さを心の中で嘆いた。





***

アレンさんがこの店に来てから、若い女の人のお客さんが増えた。間違いなくアレンさん目当てに店を訪れる人が増えているのだ。
現に今だって、アレンさんがお見舞い用の花を選んでるのに、お客さんはアレンさんしか見てないもの。
「病院でしたら、淡い暖色系ですとか、あとは香りの少ない花がおすすめですけど、…あの?」
「は、はいっ、お任せします!」
「かしこまりました、予算は…」
…ああ、ほらね、お客さん顔真っ赤だ。やっぱりアレンさんって整った顔してるもん。お花とセットで見るとまた一段と美しいもん。


アレンさんは、花のために生きているような人だ。

花に関する知識はさすがとしか言いようがないし、花の状態をぱっと見ただけで「水あげすぎです」とか「室温設定が低い」とか、ずばり言い当てる。
でも、そういうことだけじゃなくて、

「…また、笑ってる」
わたしや、お客さんにも見せないような笑顔を、花には向ける。まるで恋人に語りかけるみたいに、心から花を慈しむ。そして不思議なことに、アレンさんがお世話した花は、まるでその気持ちに応えるかのように、鮮やかでみずみずしい花になる。命を吹き込まれるみたいに、いきいきとする。

本当に、不思議な人。

まるで、

「花と話ができるみたいだ…」


「よく分かったねぇ、アレンくんは花と会話ができるんだよね」
「っ!!びっくりした…いつの間にいたんですかコムイさん」
レジの後ろにいつの間にか立っていたコムイさんは、にこにこしながらアレンさんを見ていた。
「花が何を求めてるのか、どうアレンジすればその良さが活かせるか、全部分かっちゃうんだよ」
やっぱり。その言葉に心底納得する。
「だからこそ、花の扱いに関してあれだけ厳しくなるんだよね。もー僕の店長としての立場って何なんだろうねあはは」
「あはは…」
コムイさんに苦笑を返しながら、わたしはアレンさんをちらりと盗み見た。

「…あの、コムイさん」
「うん?」
「どうすれば、ちゃんと花屋さんの仕事ができるようになるんでしょうか…わたし、このままここでバイトしてても、いいのかなって、悩んじゃって…」
こんなことコムイさんに言ったって、結局頑張らないといけないのは自分なんだってことくらい、分かってる。分かってるからこそ、上手くいかないことがもどかしい。

「…ねぇ、なまえちゃん」
俯いたわたしの頭を、ぽんと優しく撫でるコムイさんの手。こんなことコムイさんには言えないけど、お父さんみたいでひどく安心する。
「アレンくんに認めてもらうのは、まだまだ時間と努力がいるよね」
「…あの、わたし、アレンさんって名前、出しましたっけ…」
そう言えば、コムイさんは少しだけ眉を下げて、「出さなくても分かるよー」と笑った。
「悔しいけど、なまえちゃんをやる気にさせるのも落ち込ませるのも、全部アレンくんなんだよね。ここでバイトしようと思ったのも、アレンくんがいたからでしょ?」
「え、」
「ああ大丈夫、分かってるよ、そんな邪な理由だけで始めたわけじゃないよね」
どうやら、コムイさんには初めから全部見透かされていたようだ。
「…わたし、このお店が昔から大好きでした。花の名前も、お手入れの仕方も、何にも分からなかったけど、ここを通るたびに、キラキラ輝いて見えて、楽園みたいに見えて、ずっとずっと、憧れていたんです」
そんなときに、アレンさんがやってきた。
「…単純に、知りたくなったんです。どうしたら、あんなに花を心から愛せるひとになれるんだろうって。あんな表情を花に向けているアレンさんを見て、もっと知りたくなって…」
…って、何だかこれも、邪な理由になっちゃいそうな気がする。
そう思って再び俯けば、くすくすと笑う、コムイさんの声。
「何落ち込んでるんだい。この半年、なまえちゃんにだってできるようになったことがあるじゃないか。アレンくんだってちゃんと見てるよ」
ほら、と背中を押され、コムイさんの指差す方向を見ると、花を抱えたアレンさんがこちらに向かってきていた。
「お見舞い用だから、小さい花かごとかでアレンジして」
「え、あ、はい、どんなふうに…」
「任せる。アレンジとラッピングは君に任せておけば間違いないから」
アレンさんは淡々とそう言って、わたしに花を手渡してすぐに立ち去った。
「ね、言ったでしょ?」
後ろからこっそりのコムイさんが耳打ちする。
むずかゆくて、こそばゆい。顔に熱が集まるのを隠すように、わたしは花束を抱えた。



「ありがとうございました」
アレンジも気に入っていただいたようで、笑顔で店を後にするお客さんをお辞儀で見送った。
隣で先に顔を上げたアレンさんが、ぽつりと言った。
「…いつまで頭下げてるの」
その言葉に、ばっと慌てて頭を起こした。
「いや、あの…嬉しかったので…アレンジ褒めていただけて…何だか恐れ多いっていうか…」
「…ぷ、」
「っ!?」
「何言ってるの、あれだけのものに仕上げられたのは君の力でしょ。そこはもっと自信持ったら?」
ぽんぽん、頭にかかる小さな重さに、わたしの身体は一気に沸点を突き抜けた。


え、

笑った、
褒められた、
頭ぽんぽんってされた…!

わ、笑ったー…!!

「アレンさんが花以外に笑ったの、初めて見ました…!」
真っ赤な顔を承知でアレンさんを見やった。だって、あまりに貴重な経験をしたから。
わぁわぁと息まくわたしに一瞬きょとんとするアレンさん。そしてすぐに顔を背けられてしまった。
「…しまった…」
「全然しまったじゃないです!もっと笑ってほしいです!いつもわたしと話す時って眉間に皺が寄ってる、…か、ら…」
そこまで言って、はっと、ようやく我に返った。が、既に時遅し。
「へーえ…じゃあ僕の眉間に皺が寄らないよう、精々立派に仕事をこなしてくれるんですよね?」
アレンさんは再び笑った。今度は、見たこともないような不敵な悪役顔で。
顔の綺麗な人がこういう顔をすると、なぜこんなにも背筋が凍る思いになるのだろうか。
「…あ、わ、わたしそろそろ戻、」
逃げるようにゆっくりとその場を離れようとするわたしの頭を、がしっと何かが掴んだ。
…がしっ、て…これ…
恐ろしくて後ろを振り向けずにいると、すぐ背後から、
「返事、は?」
と、まるで地獄に住む鬼のようなおどろおどろしい低音が、聞こえた。そして寒い、背後が凍えるように寒い。
「…しょ、精進、します…」
「よろしい。」
そんな一部始終を見ていたコムイさんは、「良いなぁ仲良しで、僕も君達みたいにわいわいしたいよー」と、実に暢気な発言をしていた。
コムイさんのメガネはちゃんと度が合っているのか、甚だ疑問だ。




***

その日は、朝から気温が下がって、一気に秋が深まった土曜日だった。突然の気温の変化は、人間だけでなく花にとっても天敵だ。わたしはバイトの時間より少し早めに花屋に向かった。確か今日はコムイさんが早朝から市場に仕入れに行く予定だから、お店はアレンさんとわたしでみないといけない日だ。

(…あ、アレンさんだ)

誰よりも店の花を愛するアレンさんのことだから、きっともう来ているのだろうと思った。予想が的中して、わたしは少し自分が誇らしく思えた。
「おはようございます」
「あー、おはよう、」
「わ、アレンさんお鼻真っ赤。いつから来てたんですか?」
「ちょっと前。予報よりも思った以上に下がったから温度管理変更しなきゃと思って」
相変わらず花に目を向けたまま着々と仕事を進めるアレンさんに、わたしも慌てて荷物を下ろしてエプロンを被る。
ふぅ、と小さく息を吐いたアレンさんは、着けていたゴム手袋を外しながらほんの少し鼻をすすった。
…アレンさんの手、水で凍えて真っ赤だ。
「アレンさん、手ぇ貸してください」
わたしは咄嗟に自分のポケットを弄り、入っていた物を取り出してアレンさんに手渡した。
「…これ、」
「カイロです。ちょっと時期が早いけど、水仕事しながらの手には丁度いいかなって。良かったらどうぞ」
バケツの水を替えながらアレンさんを見れば、カイロを握ったままそれをぼんやりと見つめていた。
…え、あれ、いけなかったかな…?
「…おばさんくさい」
「!?」
ぽつりとカイロに呟くように零れた言葉は、しっかりとわたしの耳にも届いた。おばさんって…!いいじゃないですか、冷え性なんですよわたし!ちなみにそれうちのおばあちゃんがわたしの手を気遣って出がけに手渡してくれたありがたーい(?)カイロです!
…なんて言えず、少し遠くからぐぬぬと歯を食いしばっていると、

「…でも、あったかい」

そう呟いて、微笑んで、カイロに頬を寄せるアレンさんの姿をとらえた。

もう、何なんだ、あの人。花の次はカイロまで愛しちゃってるんですか。
ぬくぬくと暖を取るアレンさんが新鮮で、面白くて、そして可愛くて、思わずわたしも同じ表情になった。




***

「何とかダメージもなさそうで良かったですねー」
ほうと一息つきながら、わたしは椅子に腰かけ、アレンジ用の小さなサイドテーブルにずぅんと項垂れた。わたしの呟きに近い言葉をキャッチしたアレンさんは、「明日からまた少し気温差がありそうだから油断できないね」と、携帯を覗きながら答えてくれた。
まだ店を開けたばかり、加えてこの天候も左右してか、まだお客さんは来ていなかった。少し暇を持て余したわたしは、手近にあったフラワーアレンジメントの本を手に取ってパラパラとめくった。はらり、と、本が動きを止めたページには、色鮮やかなチューリップ。
「…アレンさんの花だ」
「僕がどうかした?」
ぽつりと呟いた言葉を、またまたアレンさんに聞かれてしまい、わたしは慌てて顔を起こした。珍しく、わたしの言葉に興味を抱いたアレンさんは、携帯をポケットにしまいながらこっちに近づいてきていた。
「いえ、あの、独り言です…」
「…チューリップ?」
本を覗き込んで、アレンさんが怪訝な表情を見せる。あわわわ、ご、ごめんなさい、わたしの勝手なイメージなんです…!
「どうしてチューリップが僕の花なの?」
本からわたしの顔に視線を移し、逸らすことなく問いかけてくるアレンさん。わたしの戸惑いもむなしく、どうやら答えるまで追求されそうだ。
「…ここで最初にアレンさんを見た時、両手いっぱいにチューリップを抱えていたんです。その印象が強くて…だからチューリップを見ると、アレンさんが浮かんじゃうんです」
勝手なイメージですみません、と苦笑いを浮かべると、くしゃっと頭を乱暴に撫でられた。はっとして手の主を見やれば、「…別に、謝ることじゃないでしょ」と、顔を起こしてわたしから視線を逸らした。そのままお店の裏の方に歩いて行ってしまった。
…怒ってはいないみたい、だけど…何だか、不思議な気持ち。わたしは撫でられた頭に触れながら、しばらくぼんやりとアレンさんの背中を見送った。
コムイさんに撫でられるのとは違う。でも何がどう違うかなんて、分からない。
ただ、アレンさんに撫でられると、いつもより温かくて、こういう、不思議な感覚に襲われる。
次々頭上に浮かぶはてなマークを払拭するみたいに、視線を本に移した。再びわたしの視界に映ったチューリップは、尚も綺麗に笑っているように見えた。それと一緒に、あの時のアレンさんの笑顔も浮かんでくる。ああ、どうやらわたしの脳は相当あの笑顔にやられちゃっているみたいだ。
「…ぬう…!」
気恥ずかしくて、一人で顔を手で覆ってうずくまった。
何これ、どうしちゃったの、わたし。こんな感覚、生まれて初めてだ。一体何がどうなっているの、わたしの体内で何が起こっているの。


「…何してんの、一人で」
呆れきった声が耳に届き、わたしはまた慌てて顔を起こした。アレンさんが戻ってきた。わたしはこの人に色々と驚かされてばっかりだ。
「…何でもないです」
「何でもないのにうずくまって唸る人を、僕は知りません」
「…そ、そういう気分だったんです」
「それってどんな気分?」
「…き、今日のアレンさん何だかしつこいです…」
「ふは、そうかな?」
ほら、やっぱり今日のアレンさんはどこか変だ。そうやって安易に笑ったり、撫でたりするから、わたしは身体ごとぶんぶん振り回されてる気分だ。そうやって振り回しては、面白おかしく見て、また笑うんでしょう?
「アレンさんって、結構たちの悪いことしますよね…」
そうぶつくさ呟けば、「心外だなぁ」と、綺麗に微笑んだ。
「でも、そうさせてるのが君だってことも自覚してほしいな」
「……それ、どういう、」

コト。
わたしの言葉を遮るみたいに、目の前に置かれたガラスのカップ。綺麗で思わず見惚れていると、コポコポと可愛い音を立てて注がれる、黄金色。湯気で曇ったカップと視界。それと一緒にたちこめる、優しい香り。

「…これ…」
「カモミールティー。最近のお気に入り」
「…おしゃれ…!」
あまりにも自分とかけ離れたお洒落な飲み物に歓喜するわたしを見て、アレンさんがまた小さく笑うのが分かった。少し恥ずかしくなりながらも、「…いただきます」と、ゆっくり口をつけた。
「…あったかい」
「…カモミールの花言葉、知ってる?」
ほっこり和むわたしを見て、アレンさんが問いかけた。答えに悩むわたしに、置いてあった本をパラパラとめくるアレンさん。その手がぴたりと止まる。
「これ。」
とん、と指の置かれたページに書かれた花言葉は、

「…『逆境に負けない強さ』」

「これ、君みたいだなと思って」

…わたし?
「…ど、どのあたりが…」
「そんなの、決まってるでしょう。毎日見てれば分かる」
さらりとそう言って、自分の分を注ぎ始めるアレンさん。

…きっと、褒めてくれてるんだよね…?
「…ありがとうございます」
えへへ、と嬉しさを隠せず笑えば、アレンさんはそうっとポットを置いて、わたしを見やる。

「…ほら、君だって相当たちが悪い」
「ええ!?どのへんがですか!?」
「そういう、無自覚なとことか」
「む、むじ…ええ…?」
「…ぷ、アホ面」
「っ!?」
「そのアホ面に免じて、もう1ついいこと教えてあげる」
そう静かに言って、アレンさんは大事そうにティーカップを持ち上げた。
「カモミールって結構育てやすいのに、君はここまでとても手がかかったね」
先程の嬉しさがぽきんと音を立てて折れた気がした。そうですね、苦労かけましたね…。
「でも、『手がかかるほど可愛い』ってよく言うから、そう思うことにした」
「…な、何か、すみません…」
「そうしたら、本当に可愛いと思うようになっちゃって」
…へ、
「君のひとつひとつの言動に、まさかここまで振り回されるなんて思わなかった」
「…アレン、さん…!?」
これは、夢でも見ているのだろうか。
「君が僕のことをチューリップだと言ったのも、案外間違ってないんだ」
「…ええっと、それは、どういう…」
「…さて、どういう意味でしょう」
悪戯っぽく微笑んだアレンさんが、とんとん、本を指す。頭を傾げながら本をゆっくりめくりだすと、「いらっしゃいませー」と言って店に出ていったアレンさん。どうやらお客さんが来たようだ。
何だかとても大切なことを言い逃げされていったような気がして、わたしは自分の中でうまくそれを咀嚼できずにいた。


…が、本を止めた次の瞬間、それは文字となってわたしの中に飛び込んできた。




チューリップの花言葉:
永遠の愛、恋の告白、思いやり、真面目な愛




「…っ、アレン、さんっ!」

ガタンッ


本を抱えたまま、彼の姿を追いかけた。わたしの存在に気付いたアレンさんは、ちらっとわたしの方を見て、

「そういうこと。」

そう、優しく微笑んだ。



わたしが、この不思議な感覚の正体を知ることになるのは、それから数秒後のこと。






笑顔が咲く理由を
(知ってしまったの あなたのせいで)





*****************


*てーこさまリクエスト*
「花屋アレンさんとバイトの女の子」


更新がとっても遅くなりました。。
仕事に厳しいアレンさんは、書いてて楽しかったです。でもどこで気を緩めさせるかがとても難しかった。もうちょっとつんでれ感を出したかったけど、終盤もうでれでれになっちゃった。惚れた子にでれでれになるアレンさんも良いよねってことで。
お花の知識がまったくなくて、全然リアリティがなくてすみませんでした。
てーこさま、リクエストありがとうございました◎


2013.12.28*
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