30000打企画 | ナノ


「あはは、大人気だねーあの子」
朝掃除をする僕の隣で、コムイさんが呑気に笑った。なまえは子どもたちにあっちこっち連れ回されながら(あ、足、大丈夫かな…)、必死な顔だ。
「本当だ、案外ここが合っているのかも」
僕は思わず緩む頬を押さえられず、笑いを漏らしながら呟いた。

くいっ、
「ん?」
小さな力で服を引っ張られ、見下ろすと、先程までなまえの周りを走り回っていた子たちが今度は僕の足元に群がっていた。
「ねぇアレンせんせい、なまえせんせいは、アレンせんせいのかのじょ?」
「え!?」
「あ、それ僕も気になってた。どうなんだい?アレン先生」
にやにやと意味深な笑顔を浮かべ、コムイさんまで便乗してきた。
「わたしね、おおきくなったらアレンせんせいとけっこんしたいの」
「わたしも!」
「あはは、すごいねーアレン先生、将来はハーレムだね」
「はーれむってなーに?」
「コムイさんはちょっと黙っててください」
まったくこの人は。子どもへの影響とかちっとも考えないで無責任に発言するんだから。
「なまえせんせいね、おうたをたくさんしってるの。しらないおうた、たくさんうたってくれるのよ」
「そっか」
やっぱり童話にあるように、人魚は唄に長けているものなのだろうか。
「だからね、なまえせんせいがアレンせんせいのかのじょだったら、わたしはあきらめよっかなーとおもうの」
「くやしいけど、なまえせんせいには、かなわないもの」
「おんなのなかのおんなよ」
「…みんな、どこでそんな言葉覚えてきたの…!?」
この子たちの将来が心底不安になってきた。

「で?どうなの?アレンせんせい!」
子どもたちの勢いに圧倒されながら、僕は声を潜めた。
「…じゃあ、誰にも言っちゃいけない、内緒のお話だよ?」
僕の言葉に、子どもたちはうんうんと大きく頷いて耳を傾けた。



「本当はね、

誰にも渡したくないくらい、大好きなんだ」



にんぎょのくつ*Chapter 6




「…ねぇ、アレン」
「何ですか?あ、お昼寝終わったらみんなのおやつ用意しましょうか」
「今日、子どもたちに変なこと吹き込んだでしょう」
お昼寝の時間、アレンと一緒に内職をお手伝いしながら、わたしは問いかけた。アレンは笑って「何のこと?」と首を傾げた。
「さっき、ユウタくんに『おまえ、アレンせんせいのおんななんだろ?』って言われた」
「ちょ、ユウタくんまで、どこでそんな言葉を…!」
「ユウタくんだけじゃなくて、カナちゃんにも、ミカちゃんにも同じこと言われたの」
「…すごいね、午前中だけでもうみんなの名前覚えたの?」
わたしが頷くと、アレンは目をぱちくりさせて驚いていた。そんなに驚くことなのかなぁ。

「…さっきね、なまえは僕の彼女なのか?ってみんなに聞かれたんだ」
アレンはとても穏やかな表情と口調で切り出した。
「誰にも内緒だよ、って言ったんだけどなぁ」
「なんて、答えたの…?」
「…知りたい?」
わたしがうん、と小さく頷くと、アレンはちょいちょい、とこれまた小さく手招きをした。促されるまま耳を近づける。




ちゅぅ、

「っ!?」


耳に、柔らかくて温かい感触が、した。

「内緒。」
アレンはそう言って微笑んだ
けど、

もう、全部、分かって しまったの。
アレンの気持ちも、全部全部。
「…いじわる」
「あは、すみません」


(「…あっ、アレンせんせいがいちゃいちゃしてるー」)
(「ばっかおまえ!ばれるだろ!?」)






***

なまえが保育園を手伝い始めて2日目の午後。
「…あれ、どなたかいらっしゃってたんですか?」
子どもを寝かしつけている間に、どうやら来客があったらしい。
「ああ、役所の新しい職員さんだって。区間内の保育所を視察して回ってるらしいよ」
「へぇ…」
「子育て支援課も大変だねぇ、こんな小さな保育所まで視察して回らないといけないんだもんね」
コムイさんはそう呟いて、空いた湯呑を片づけていた。
「…ねぇ、なまえちゃんは?」
「まだ子どもを寝かしつけてますけど…何かあったんですか?」
急に声色を変えたコムイさんを不審に思った。彼女が何か関係することでもあったのだろうか。
「いや、さっき来た役所の人がね、妙なことを言ってたから」
「妙な、こと…?」


「最近、このあたりで『人魚』を見かけなかったか、って」



 …人 魚 ?



「…コムイさん、人魚、って…」
まさか、
「僕も最初は何の冗談かと思ったんだよ。でも、ここ最近、海岸付近で人魚を目撃したっていう人が何人もいるんだって。その全員の証言が一致してるから、存在していた可能性が高い、って」
コムイさんの言葉に、僕は自分の心臓が冷えていく感覚を覚えた。

真っ先に、思い浮かんだ顔は、

「その人魚の目撃証言が、すっごい似てるらしいんだよね…なまえちゃんと」


愛しい 愛しい

彼女の 顔。

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