はろ | ナノ


「…何でレバーばっかなの…」
「……いや、あの、なんていうか、別に鉄分しっかり摂って十分に血が吸えるといいなぁとか、そういうわけじゃなくてですね、たまたまレバーが安かっただけで、その、」
「…アレンくんのそういうしたたかなところ、あんまり好きじゃないや」
「……はい」

そう言いながらも、僕の作った大量のレバニラ炒めをぱくぱくと口に運ぶなまえ。どうやら口には合っているらしい。ほっとして、「まだおかわりありますからね」と言うと、「下心が丸見えだからいらない」と睨まれた。あ、はい、すみません調子に乗りました。

なまえの家に住み始めて4日。約束通り、家事の大半は僕が担当し、今もこうして晩御飯をこしらえている。一緒に住んでいると言っても、なまえは平日はほとんど学校に行っているし、僕もバイトだったりするから、こうやって一緒に晩御飯を食べる時間は結構貴重なひとときなんじゃないかと思う。でもそう思っているのはどうやら僕だけのようで、
「ごちそうさま」
「え、もういいんですか?」
「うん。お風呂入ってくる」
食べ終わった食器を洗い、僕と目を合わさないまますたすたとお風呂に向かうなまえ。

…なんだか、避けられている、のだ。
当たり前と言えばそうなのだが。そりゃあ、赤の他人がいきなり部屋に転がり込んできて、ましてや自分の血が狙われてるとなれば、自分から近寄る奴なんてまずいないだろう。『契約』と言っても、僕が一方的に押し付けたようなものだし、なまえはああ言ってくれたけど、快諾してくれたわけでもない。や、こうして僕の話を信じて家に置いてくれている時点でも十分ありがたいことなのだが。

「…もっと、仲良くなりたいんだけどなぁ」
床にごろん、と寝転びながら呟いた言葉。
どんどん欲深くなるのが、人間の悪いところだ。あ、間違えた、僕人間じゃなくて吸血鬼だった。

自分でもおかしな感情だとは思う。僕にとっての彼女は、いわば血を吸うための『媒体』でしかないはずだった。だけど、それだけの関係じゃあ、なんだか気持ちが曇ってしまう自分がいて。

―彼女を、もっと知りたいのだ。

何が好きで、何が苦手なのか。学校ではどうやって過ごしているのか。どんな子どもだった?家族は?友達は?彼氏は?
何も知らないんだ、彼女のことを。
同時に、彼女も僕のことを知らないんだ。

ぐらぐら、歪んでいく思考と視界。あれ、おかしいな、まだ眠くなるには早い時間なのに。起き上がれ、ない、や。息が、苦しい。

ああ、この感じ。そっか、僕、




「……アレンくん?」
風呂上がりだろうか、なまえの声が耳の奥の遠いところで聞こえた。
「寝ちゃった、の?」
寝てないよ、起きてるよ、だけど声が上手く出せないし、まぶたもきちんと開けられないんだ。
「…やだ、ちょっと、顔が真っ青だよ!」
なまえはひどく焦ったように言うと、僕を必死に抱えて(あ、意外と力持ち…)ベッドに運んでくれた。だめだよ、ここはなまえが寝るところでしょ、僕は床でいいから、ねぇ、なまえ、

「……どうしよう、」
困ったように呟くなまえの声がした、
と、思ったら、

「…アレンくん、」
静かに、だけどしっかりと僕の名前を呼んだ。なまえが、僕の頭を後ろから支えて、抱き起こした。そして、そのままなまえの左肩へぽすっ、ともたれさせた。なまえの首筋がすぐ近くに感じられて、甘くて柔らかい匂いがした。僕はそれに身を委ね、誘われるままに鼻を近づけた。そして、
「大丈夫だから」
そう言ったなまえの声を皮切りに、僕の口がゆっくりと開いた。



意識が戻った時に感じたのは、口の中に広がる鉄の味と、鼻をかすめる甘い匂い。両手に感じる、柔らかな重み。
ムカつくほどに満足感のある体内と、後悔と嫌悪感の残る心情。

「……ごめん、なまえ…っ」
掠れる声で名前を呼んで、「ごめん」と言って、力いっぱい抱きしめることしか、僕にはできないのだろうか。



泣き虫ジャックが流した涙
(「もういいよ、謝らないで」)



あ、あれ?なんか予想に反してなかなか話が進まない上に暗くなってきた。もっとコミカルな感じにするつもりだったのに。最初のお題とか完全に無視してる。ハロウィンって恐ろしいですね。つ、次こそはキャンディーっぽい話に…!


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