はろ | ナノ

「…最悪だ。すっごい嫌な夢を見た。なんか変な白髪頭の男の子に会って、『実は僕、吸血鬼なんです』とかなんかよくわからないカミングアウトされて、しまいには『契約してください』だの『血を吸わせろ』だの、どこの変態だっていう。大体にして吸血鬼なんかこの世に存在するはずがないのに、もう、そんなにハロウィンが楽しみなのかしらわたしったら「そのまま夢オチにしようったってそうはいきませんからね?」…」

僕の『契約者』もといなまえは、ベッドに閉じこもったままぶつぶつと呟いて、なかなか現実を見てくれない。ちなみにここはなまえの住むアパート。どうやら一人暮らしをしているらしい。僕としても非常に好都合である。昨日、あのまま気絶させてしまった彼女を抱きかかえて、ここに連れてきた。(ちなみに運転免許証の住所を見て特定した。)

「……なに、なんなの、なんでうちにいるの?」
「契約者だからです」
「もうちょっと分かりやすく教えてください」
「えーっと、昨日、僕と『契約』しましたよね?」
「ていうか、あなたが無理矢理吸ったからですよね?わたしは契約するだなんて一言も言ってませんよね?」
「…だって、ああでもしないと、僕の身がもたなかったんですもん。それに、なまえが快く承諾してくれる自信もありませんでしたし」
「ねぇどんだけ自分勝手!?下手したら婦女暴行で訴えられるくらいの事件ですよ血ぃ吸うとか!人んち勝手に入るとか!攫うとか!」
「…やっぱり、僕、警察行きでしょうか…」

しょんぼりと項垂れて捨てられた子犬みたいになった僕を見て、「うっ…」と良心の傷んだ表情を見せたなまえ。ああ、やっぱりこの人は、すごく、優しい人だ。
…この優しさにつけこんでいる僕がいるのも、悲しいかな現実だ。

「…警察には、行かなくてもいいよ」
「本当ですか!?」
ため息をついて、何かを諦めるような表情のなまえと、ぱぁっと華を飛ばす僕。あまりに対称的な僕たち。
「ありがとうございます!…あっ、えっと、まだ言ってなかったですね」
「?」
「僕の名前。アレン・ウォーカーっていいます」

「…ねぇ、アレン、くん」
「はい?」
「…アレンくんが、吸血鬼っていうのは、その、本当に?」
昨日、あれこれ長ったらしい説明をしたけれど、それでもまだ疑いの念を抱くなまえ。僕は、ふぅと小さく息を吐いて、そしてなまえに向かい合った。
「…証拠、見ますか?」
ゆっくりと、顔を近づける。なまえの瞳が、ゆらゆら、不安定に動いていた。濁りなんか微塵もない、潤んだ、きれいな、瞳だ。
その瞳に、僕が映し出されているのを確認すると、僕は、くぁ、と口を開いてみせた。
「…っ、」
「…大丈夫、今は噛みついたりしないですよ」
上顎から大きく鋭く生えた、2本の牙。僕を『吸血鬼』だと自覚させるパーツ。明らかに普通の人とは違うそれに、なまえの顔が歪んだのが分かった。恐怖を全面に出す彼女に、僕は心臓の奥の奥のほうがぞくぞくするのを感じた。あれ、僕って意外とSっ気がある、ようだ。
「これで、信じてもらえましたか?」
「……」
「…まぁ、契約した以上、またなまえの血を吸うことになるので、嫌でも信じなきゃいけなくなるでしょうね」
皮肉ともとれる発言に、なまえは再び布団を被って身を守っていた。どんだけ警戒されてるんだ、僕。
「そんなに警戒しないでくださいよ、これから一緒に住むんですから、慣れてもらわないと困ります」
「あ、うん、そ、そうだよね、一緒に住む………ちょ、住むってあなた、え?」
「なまえなまえ、口あいてます」
「す、住むって、どこに?まさか、ここに…!?」
「はい、ここでしばらく厄介になります。いつどこで吸血衝動が起こるか分かりませんからね」
「……っ、ほんと厄介です…!」
あ、枕に顔沈めちゃった。
「身勝手なことを言っているのは承知してます。そのかわり、家事一般は僕が引き受けますし、もちろん食費や家賃も半分出します!お願いです、僕をここに置いてください!」
がばっ、と勢いよく土下座すると、しばらくして、
「……分かったから、顔、あげて」
小さな、声が聞こえた。
ゆっくり顔を上げると、やんわりと苦笑を浮かべたなまえと目が合った。
「アレンくんが、嘘ついてないって、信じるよ。血、吸わないと、死んじゃうんでしょ?でも、痛いのは嫌いだから、吸うときは手加減してね」
心なしか、警戒をだいぶ解いてくれたなまえ。
ああ、もう、どうしてそんなに優しいんだ。沸々と、心臓からお湯が湧き出ているみたいに、僕はどうしようもなくあったかくて、嬉しくて、叫びだしたくなった。
「〜〜〜なまえっ!!!」
がばっと、思わず抱きついた僕に、なまえは「わぁ」と小さく声をもらしてぐらりと体勢を崩した。

「調子に乗らないで変態ー!」
「……あ、はい、すみません…」
ふと気付くと、僕の下でわぁわぁ言っているなまえ。……あ、やばい、この体勢はやばい。何だこれ、何やってんだ僕。ていうか場所も悪い。ベッドって。やばい。
「…早くどいてよ」
強気な発言とは裏腹に、耳まで真っ赤にして、泣きそうな顔で僕に懇願してくるなまえ。その顔は、今まで見たどの表情よりも、彼女を『女性』だと印象付けた。なんていうか、こう…
……いやいやいやいや、ちょっと待って落ち着こう?何、なんで僕こんな心臓踊ってんの。心臓が体内でタップダンスしてるんだけど、え、ちょ、ブレイクダンス始めたんだけど。どきますよ、わかってますよ、でも、なんか…

「…やだ、もうちょっと、このまんまがいい」

気づいたら、そんなことを口走っていた。
「は!?」
「もうちょっとだけ、こうしていたい」
ぎゅ、と、なまえを抱きしめる手に力を込めて、もがく彼女の動きを封じ込めた。ばたばたしていたなまえが、徐々に、静かになった。

「…なまえ、顔、真っ赤ですよ」
「…アレンくんだって」

なんだか妙な雰囲気になった

…かと思いきや、その雰囲気は、その直後なまえの盛大なお腹の音で、ないものになった。

「…ぷ、ちょ、お腹で猛獣でも飼ってるんですか?」
「飼ってないよばか!お腹空いただけだもんばか!」

正直なところ、彼女の空腹に助けられた、気がする。何だあの変な感じ、なんだか、ひどく、慈しむような感情。大事で、だけど、歪めてもみたくて。
「…ふはっ、朝ご飯、作りましょうか」
ぽん、となまえの頭を撫でてから、身体を起こした。

「……焼き肉食べたい」
「朝からどんだけ食べる気ですか」


猛獣を飼っているのは、僕のほうなのだろうか




狼男と吸血鬼
(あれ、どっちが本当の僕だっけ)





なんだろうこのやっつけな文章。よくわからない。ハロウィン近づいたから若干焦ってきました。最初に考えたタイトルとどうしても合わなくて変えました。計画性のなさにびっくりします。誰ですか書いてるの。わたしか。


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