dgmこびん | ナノ



【嘘みたいな話だけど、
このせかいは、砂糖とか蜂蜜とかでできているのではないか
と、最近のわたしは本当にそう思うのだ。】






「今日の夕飯は何がいい?」と、ソファーの隣で寛ぐ彼に尋ねれば、「なまえの作るものなら何でもいいよ」と、目を細めて言葉を返す。

「明日の日曜、どこへ行こうか?」と、寝転がって本を読む彼に尋ねれば、「なまえの行きたいところに行こうよ」と、柔らかく微笑んで答える。


そういう答えが一番困るのに。そう言って膨れっ面で彼を見つめれば、「ふは、ごめん」と笑って、謝罪の気持ちなんてこれっぽっちも含めないような口調と表情を零す。
実際のところ彼は、わたしが作るものなら何を出しても「おいしい」と言って食べるし、わたしと一緒にいるときはいつでもどこにいても楽しそうにしている。
それはもう、作られた笑顔なんかじゃなく、思いがけずそうなってしまった、というような、屈託のない笑顔で。
……まぁ、ごくたまに、ちょっと黒かったりもするけれど。




「アレンはさ、奥さんができたら尻に敷かれたいタイプなの?」と、冗談半分で尋ねれば、うーんと、しばらく上を向いて考えたあと、「…そうかも。」と、悪戯っ子のような顔でぽつりと言った。

「やっぱ、そのへんは紳士だから女性を立てるの?」

「うーん、あ、でもいつもじゃないよ」

「てことは、たまには亭主関白なんだ?」

「亭主関白っていうか…ほら、僕は男で、なまえは女でしょ。それぞれの役割があるじゃない、夜とか。」

「……もしかして、あっち系の話?」

「そっち系の話。」

「………」

…爽やかな笑顔を放つ外見とは裏腹に、彼も一丁前に『男』なのだ。それはもう、夜行性の凶暴な狼を体内に飼っているかのように。


「……アレンのへんたーい」

「それほどでもー」

「ほめてないよ!」

ぽすんっ。
わたしがアレンに向かって投げたハート型のふわふわクッションは、いとも簡単に彼の手中に収まってその形状を崩した。

「見て見てなまえ、ティムキャンピー」

彼はハートのクッションの上部を左右に折り曲げて、嬉しそうにわたしに見せる。

「ティムキャンピー、そんなぶさいくだったかしら」

「うん、こんなんだった」


ティムキャンピーとは、アレンが実家で飼っている犬のこと。蜂蜜色のふわふわな毛並みに、愛らしい表情をした小型犬。


「元気かなぁティムキャンピー、また会いたいなぁ」

ぽつりと呟くと、それを聞いていたアレンは持っていたクッションを足元に置いて、わたしの隣に近寄りちょこん、と座った。

「じゃあさ、来週の土日、久しぶりにうち行こうよ。父さん達もなまえに会いたがってたし」

「え、いいの?うあ、なんか緊張するね」

「あは、何それ、緊張するんだ?前も会ったことあるでしょ」

「するよ!彼氏のご両親に会うっていうのはね、例え初対面でなくても一世一代の大舞台になるんだよ!」

「へぇ、大いに頑張ってください、舞台女優さん」

アレンはそう言ってわたしの頭をやんわりと撫でた。
若干上から目線で言われた感じがするのは目を瞑って。
時々、わたしの髪を梳くようにして指に絡める彼の撫で方が、わたしは堪らなく好き。

こてん、と、彼の肩に頭を委ねてみる。淡い色の髪が頬を掠めて、くすぐったい。
あ、アレンの匂いがする…、なんて思っていると、髪を撫でていた手が離れて、わたしの肩をぐ、っと抱き寄せた。うわわ、と、体制を崩してアレンに寄りかかってしまった。



「…ねぇ、なまえ、」

「な、んでしょうか」

頭のすぐ上でアレンの声が聞こえて、なんだか妙に恥ずかしい。いや、爆発しそうなくらい恥ずかしい!


「うん、やっぱ、落ち着くね」

「なにが、?」

「なまえの隣が。」

「……それは、どうも。」

「はー…しあわせ、だなぁ、」

「…うん、」






「……あ、」

「え、なに、どうしたの」

「やばい、今すごい爆弾発言しそうになった」

「なにそれ、気になる!」

「や、まだ言えない、まだちょっと早い気がする」

「なにー?そこまで言ったらもう全部言ってよー!」

「いやー、人間って幸せすぎると何を漏らすか分からないね、怖い怖い」

「だから何!?もやもやする!」

「ふは、好きなだけもやもやしたらいいよ」

「わぁ、でた腹黒アレン!」





アレンがそのかたい口を開き、もやもやを解消させてくれたのは、それから1年後のこと。




砂糖菓子のようなせかいで。



『もし僕が、なまえと結婚したいって言ったら、なまえはどう思う?』

『……ずるい、と思う、そのプロポーズ』



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