dgmこびん | ナノ

ちかちかと、目の前を控え目に照らす、暖色の灯りが見えた。古びた天井板はまぎれもなく馴染み親しんだ我が家のものやった。額が冷とうて気持ちいい。何か、乗せられとる。
「…!?」
そこまで考え、わたしは漸く自分が寝ていたことに気付かされた。

「目、覚めました?」

ここはわたしの部屋(正確には元わたしの部屋で、わたしが出てからは半分物置みたいになっとる)。せやのに、この小さな部屋には、わたし以外にも人がおる。聞き覚えのある優しい男の子の声に、がばっと身を起こして視認した。
「わっ、そんな急に起きて大丈夫ですか!?」

…ああ、やっぱり、

「…アレン、くん…」

この人の声やった。


わたしが素早く起きたことに一瞬戸惑ったアレンくんは、すぐに微笑んでわたしの額から落ちたタオルをそっと拾った。
「体調どうですか?もう動けます?」
「あ、うん、ごめんね迷惑かけて…」
…あれ?そもそも何でわたし寝てたんやっけ…?そして何でアレンくんに付き添ってもらっとるんやっけ?
頭を捻り、必死に思い出そうとする。
「…なまえさん、まだ体調悪いんじゃないですか?無理しないで横になっててください」
「え、や、せやないよ」
「強がってもダメです、いいから寝てください」
「や、ちょっ、うわぁっ」
反抗虚しく、わたしは再びすぽんと布団に背中を預ける羽目になった。アレンくんは心配症やなぁ。

「熱は?」
「や、ほんま、大丈夫やでアレンく…」
遮るみたいに、ひた、と額に当てられたアレンくんの手のひら。
「…まだちょっと熱いなぁ」
「…」
…アレンくん、せやないよ、これ熱とかそういうんやないよ…!

カチ、コチ、
どこかから一定のリズムで時計の秒針が鳴る。それがはっきりと聞き取れるくらいに、この部屋は静か。わたしの額に手を乗せたまま、アレンくんは何故か何も喋らなくなった。かと言ってわたしも何をどうしたらいいのか分からなくて、とにかく早くアレンくんの手が離れる時をひたすら切望した。早くせんとわたしの心臓がもたん。早く、早く。

「…なまえさん、神田とは兄妹みたいなものだ、って言ってましたよね」
「へ、」
な、何、何で突然ユウくんの話に…?

…あ、

そこでわたしは漸く思い出した。
「せ、せや、ユウくんは…?あの後、電話、わたしっ…」
聞きたいことが上手く言葉にならなくて、単語ばかりが先走る。慌てて起き上がろうとすると、アレンくんは額に当てていた手を今度は頬に当てて、両手でふに、とわたしの頬を押し潰した。そしてそのまま再び頭を枕に沈められた。…あれ、何でこうも簡単に押し切られてしまうんやろか。
「…ぅん?」
「とりあえず落ち着いてください。…神田は、僕が適当に切って一旦宥めておきました。向こうは納得してないと思いますけど」
「…アレンくん、電話、聞いとったの…?」
「聞かなくても、どんな内容かなんて、なまえさんの反応見れば分かりますよ」
子どもに言い聞かせるみたいに、静かに話す アレンくん。
「…強引に話に入ってすみません。なまえさんが困ってるように見えたから、神田この野郎って思って」
そう苦笑いするアレンくん。…多分、わたしはほんまに困っとった。ユウくんに返答を急かされて、どうしたらええのか分からなくなった。だって、そういうふうにユウくんのこと、今まで考えたこと、なかったから。
ユウくんのことは好き。せやけど、ユウくんの求める好きかどうかなんて、そんな大事なこと、すぐには分からなかった。
「…ごめんね、巻き込んで」
わたしがはっきり返答せなあかんことやのに。
「アレンくんは、やっぱり優しいね」
そう呟けば、アレンくんはそんなことないですよ、と笑った。

「僕だって、二人の時間を邪魔されてイラついたんです」

「…え」
それまで笑顔だったアレンくんが、突然、真面目な表情に変わった、気がした。
「…なんて、ね」
「…へ、」
気がしたけど、すぐにそう言うていつものように笑った。
「…び、びっくりした…もう、変な冗談やめてよ」
あはは、と乾いた笑いしか出てこなかった。そしていつまでアレンくんに頬を拘束されてるんやろか…。

「…じゃあ、ここからは冗談抜きで話しますね」


…訂正。やっぱりアレンくんの表情がいつもと違う。微笑んどるはずやのに、少し怖い。目を見たら身動きできなくなる。

「…アレン、くん…?」
「僕だって男なんです。これ以上神田に好き勝手されるのはもう嫌です」

まるで、蛇に睨まれた蛙になった気分。

「なまえさんが好きです」

「…え?」

ちょっと、待って、

アレンくん、今、何て言うた?

言葉を、上手く咀嚼できないよ。

「神田のところになんか、行かないでください。僕を、選んでください」

アレンくんの顔から、いつの間にか、笑顔が消えていた。

「来週で、住み込みのバイトも終わります。だけど僕は、このまま終わりになんて、したくないんです」

優しくて、仕事熱心で、時々わたしをからかう、笑顔が可愛いアレンくん。
わたしの知ってるアレンくんと、少し違うて見えた。

わたしを真っ直ぐ見つめるその銀灰色の目は
わたしの知らない、男の子の目やった。



あなたともみじ
(もう、心臓がいくつあっても、足りない)




**********

女の子のどっちつかずな態度にいらいらしているのは、わたしだけではないはず。すみません。シーソーでもそうですが、今まで家族とかきょうだい同然に育ってきた存在を、恋愛対象として意識するためには、途方もない時間とエネルギーが必要なんだと思ってます。だからこんなんなるのね。これちゃんと完結するのかな…。
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