dgmこびん | ナノ

「なぁなまえ、あんたアレンくんに何かあかんこと言ったんとちゃう?」
母さん(もみじ旅館の女将)は客間から下げてきたお膳をわたしに明け渡しながら口を尖らせて愚痴を溢した。
「別に何も言うとらんと思うけど…」
「ほんなら何であんな元気ないん?あんたと一緒に神田酒造さんとこ行ってからやで、あんなんなってんの」
あたかもわたしに責任があると言うかのように、母さんは容赦なくお膳を重ねていく。ちょ、さすがに4段目はあかんよ…!
「ほんまに知らんもん…」
「ええから一言謝っとき!アレンくん今ちょうど洗い物しとるからこれ持って行って話しかけてきぃや!」
「…またそうやって体よく仕事押し付けるんやから…」

ぶつくさ言いながらも、わたしの足はいつの間にやら厨房に行き着いていた。習慣って恐ろしい。
お膳の隙間から会間見えた、アレンくんの細い背中。厨房のみんながあちこちに出払っているなか、一人で黙々と食器を洗ってる。カチャカチャ、っていう、食器の鳴る音しか響かへん、寂しげな空気が漂う厨房。わたしはすぅ、と少し息を吸って、声を発した。

「アレンくーん、これもよろしくー」
手を止めて、ゆっくりと振り向いたアレンくんは、
「あ、はい…って、ええぇ!?どんだけ重ねてるんですか!?」
高く積み重なったお膳を見て慌てふためいた。そして急いで水道を止めて、こちらに近づいてきた。
「この状態で、よくここまで歩けましたね…」
アレンくんは苦笑いを浮かべながら、お膳をひとつずつ下ろしてくれた。
「毎日通るルートやし、身体に染み付いとるんよ」
「あはは、さすがですね」

…あ、今、無理して笑った。

「…なぁ、アレンくん」
「はい?」
「やっぱり、わたしが何かしたから元気ないん?」
アレンくんの顔を窺うようにそう問い掛けると、アレンくんは「…え、」と、何とも言えへん表情を作った。
「やっぱりそうなん?わたし、なんにも自覚がなくて…何かしちゃったなら謝るよ」
「…いえ、そんなんじゃないんです」
アレンくんはまた苦笑した顔で、お膳を洗い場に運びだした。その後を追って、わたしも隣で洗い始める。

「…それとも、ユウくんのせい?」

がちゃんっ、
「…あ、す、すみません、手が滑っちゃいました」

…絶対ユウくんだ!あの子、うちの旅館の大事なアイドルに何言うてん…!
「ちょお待っとってねアレンくん!今ユウくんに電話してく「違うんです!」
ユウくんちに電話しようと動いたわたしの手を、泡だらけのアレンくんの手が掴んだ。
「…っ、違う、そういうんじゃ、ないんです…っ」
「…せやかて、ユウくんあの口調やし、アレンくん気分害したんやろ?」
「そんなんじゃ、なくって…」
「…じゃあ、何なん?」
「…それは…っ」

煮え切らない返答を繰り返すアレンくんが、今度は言葉を詰まらせる。その直後、かあぁ、と顔を赤くし始めた。…え、何、どないしたんアレンくん…!
「…アレンくん?」
おずおずと声をかけると、きゅっ、と水道の蛇口を捻ったアレンくん。蛇口を握りしめたまま、今度はふーっ、とものすごく深い息を吐いて俯いた。


「…なまえさん、」
「うん?」
「…今から僕が言うこと、笑わないで聞いてくれますか?」
「も、もちろん笑わへんよ!」
「…あああもう、本当はこんなタイミングで言うつもりじゃなかったのに…!神田があんなこと言うから…!」
がしがしと、ひどく悔しそうに頭を抱えるアレンくん。ど、どないしよ、アレンくんの真意が掴みきれへん…!
「…神田に先越されちゃったのは、すごーく、ものすごーーく悔しいけど…」
「…?」





「…僕、なまえさんの、こと…」








「なまえーー!神田酒造さんとこのユウくんから電話やでーー!!」



がしゃんっ。
アレンくんの両手がお皿の山に埋まった。
「ユウくんが?」
「なんや、中学の同窓会のはがきがあんたの分まで届いとるんやてー」
「えー?ごめんアレンくん、電話終わったらまた話聞くから!」

ぱたぱたぱた…




「……何でこう、タイミング悪く邪魔するかな、神田ユウ…っ!」

パキンッ、と、陶器のひび割れる音が、厨房のどこかから聞こえた気がした。あれっ?何やろ、殺気を感じる…!




どきどきもみじ
(なまえ?どうした?)
(え、いや、何もあらへんよ!)
(つーかさ、この間の告白の返事とか聞きたいんだけど)
(!?)






*****

…性懲りもなく、またまた続編。どんだけ旅館愛してるんでしょうねけいさんは。へへへ!


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