dgmこびん | ナノ

※「いろはにもみじ」の続きです*





「…っしょ、これで全部やで」
がさり、と音を立てながら、ぎっしりお味噌の詰まった紙袋を下ろした。
玄関先からユウくんがそれを受け取り、台所へと運んだ。心無しか、お味噌を受け取ったユウくんの目が輝いとる。和食好きやもんね。

「…すげぇ量だな、味噌汁何人分だ?」
「知らんよそんなの、ユウくんはお味噌汁しか知らんの?」
「あ?他にねぇだろ、味噌の使い道なんて」
「そんなことあらへんよ、なぁアレンくん?」
「………ソウデスネ」
「…おい、てめぇはいつまで俺を睨みつければ気が済むんだ」
「…別に」
「…エ、エリカ様がおる…!」
「馬鹿かお前は」
アレンくんのあまりのエリカ様っぷりに感激していると、隣のユウくんにぺしんと突っ込みを食らった。

ユウくんのお父さんの計らいで、神田家でお茶をいただくことになり、「…チッ、そこ座ってろ」って舌打ちしたユウくんが台所へ向かっていった。
「…舌打ちされるくらいなら、お茶なんてもらわなくていいです」
案の定、不機嫌MAXなアレンくんは、神田家の畳を地味にほじくり始める。ちょ、あかんよそれアレンくん…!
「えーと、ユウくんのアレは、ただの癖なんよ」
「舌打ちが常習化しちゃうって、どんだけ性格悪いんですかあの人」
「せやないよー、照れ屋さんやからああいう表現になってしまうだけなんや。ほんまはお味噌もろて若干テンション上がってんねんでアレ」
おもろいやろ?とわたしが楽しげに弁解したところで、アレンくんの表情が和らぐはずもなかった。ああ、もう、綺麗なお顔がめっちゃ歪んどるよアレンくん…!


「…なまえさんは、」
「うん?」
「なまえさんは…仲が、良いんですね、あの人と」
畳に視線を落としながら、ぽつりと呟くように言ったアレンくん。
「良い、というか、昔からの顔なじみやからね、兄妹みたいなもんやで。このお家にも何回もお邪魔しとるし」
「好きになったり、とかは…」
「あはは、ないない、そんな関係ちゃうもんー」
わたしが笑って否定すると、台所からわたしの名前を呼ぶユウくんの声が聞こえた。
「なーにー?」
「これ、茶の葉って、どの位入れたらいいんだ」
「キャップの底が埋まる位やないの?」
「分かんねぇ、ちょっと来て」
「えー?」
ユウくんのボケっぷりに思わず笑みを溢しながら、アレンくんに「ちょお待っとって」と言って台所へ向かった。



「ユウくん、お茶淹れたことあらへんの?」
「いや、あるけど、この緑茶はよく分かんねぇ」
「どれもやり方は一緒やで、ユウくん湯呑みちょうだい」
「ん」
ユウくんとわたしとアレンくん、3人分のお茶をゆっくり淹れる。その傍らで、ユウくんがなぜかまじまじと観察する。
「…手際いいな、お前」
「そう?旅館でよく出すからやろ」
「そうか。…日本酒の香りの違いなら分かるんだけどな」
「酒造の息子やったら得意やろなぁ」

「…そういや、あいつは?」
「へ?」
「さっきのモヤシ野郎」
「モヤシて……。アレンくんなら居間におるよ」
ていうか、何でほんとにそんな仲悪いん?ずっと思っていた疑問を、今度はユウくんに投げかけてみた。
「知らん。あいつが勝手に俺を毛嫌いしてるだけだ」
「アレンくんはそんな子ちゃうよー、ユウくん何か気に障ること言ったんとちゃう?」
「…何であいつの味方してんだよ」
お茶っ葉の蓋を締めながら、ユウくんが呟いた。
「だってアレンくん、ええ子やもん。旅館の仕事もようやってくれはるし、優しいんよ。さっきのお味噌やって、ほとんどアレンくんが運んでくれはったやろ」
「……下心に決まってんだろ、あんなん」

「陰で悪口言う人に言われたくありませんね」

男の人にしては少し高い声が、後ろから聞こえた。振り向くと、アレンくんが不機嫌そうな顔で腕を組んで壁にもたれていた。
…ああ、何やこれ、めっちゃ空気が冷たなってきた…!

「何だ、盗み聞きかよ趣味悪ぃな」
「すみません、どこかで不愉快な悪口が聞こえた気がしたんで」
「あああ、えっと、お、お茶飲もうかアレンくん!」
まずい、この空気はまずい気がする…!わたしはアレンくんとユウくんの肩を押して居間に促そうとした。お茶飲んで落ち着けば大丈夫!きっとみんな喉渇いて気が立ってるだけ!

「俺はてめぇみてぇな奴が一番気に入らねぇんだよ」
「ちょ、ユウくん何言うてん…!」
「それは丁度良かった、僕もあなたみたいな奴がいっちばん嫌いです」
「ア、アレンくんんん!?」
「んだと?てめぇみてぇな裏表のある奴に言われたかねぇよ」
あ、あかんこれ、何や徐々にヒートアップしてはる…!わたしがいくら彼らを動かそうとしても、びくとも動かへん…!
「はぁ?僕の性格もよく知らない人にとやかく言われたくないです」
「ハッ、知りたくもねぇよそんなん」
「ああそうですか、じゃあ早々に帰らせていただきます、行きましょうなまえさん」
直後、ぐいっとアレンくんに手を引かれて引き寄せられた。突然のことに身体のバランスを崩したわたしは、アレンくんの胸に飛び込む形になった。
「待てよ、こいつは関係ねぇだろ置いてけ」
ぐいっ、今度はユウくんの方に引っ張られる。あ、ちょ、何これ、
「独占欲剥き出しの男は嫌われますよ」
「てめぇもだろうが」
「…そんなに、なまえさんが大事ですか?」


「…うるせぇな、大事に決まってんだろ」


…………は、

「張り合うつもりはねぇよ、こいつと付き合いの浅いてめぇなんかと一緒にすんなボケが」
はんっ、と嘲笑いながら、ユウくんはいつの間にかわたしをすっぽり手中に収めていた。
…え、ていうか、え?ユウくん、え?

「おら、分かったらとっととその手ぇ離せやクソモヤシ」
しっしっ、と虫を払うみたいに、アレンくんの手をわたしから離したユウくん。若干呆然としてるアレンくんは、払われるがままにその手を離した。
「残念だったな、カマかけて動揺させようとしたんだろうが、生憎こっちは隠すつもりも毛頭ねぇんだよ」
「…あ、あの、ユウくん、」
これは、一体どういう状況?

「つーわけなんで、これからは遠慮しねぇからな」
覚悟しとけよ?なまえ。

そう言って目を細めて笑うユウくんを見て、ああ、そういえばイケメンの部類やったなぁこの人…と、頭の遠くの方で思い出した。



ゆらゆらもみじ
(ふ、また顔真っ赤になってんぞ。)
(…っ!!)
(ちょっ、何触ってんですか!)





******

…やばい、続編書いちゃった…。(似非)関西弁が楽しすぎる。
けいの目指す神田さんは、『どこか抜けてるくせにここぞという時には男になる強気なイケメン』です。お味噌もらってテンション上がる神田さんとか、聞いたことないよ。
- 24 -


[*prev] | [next#]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -