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 ―しずくあめ―
  case1:Kanda




ぽつ、ぽつ、
むわっとした空気が漂うとともに、アスファルトが黒地の水玉模様を描きだした。

「…ぅあ、降ってきちゃった」
空は、どんより感を演出する灰色が広がって、シャワーみたいな雨が落ちてくる。わたしは意味もなくそれを手のひらに落とそうとして、決して長くはない左手を伸ばした。校舎の屋根からはみ出して、当然ながら雫を纏いだした。
わたしはほんのちょっとだけため息を吐いて、鞄の中で彷徨う折り畳み傘を探した。


「―…まだ帰ってなかったのか」
「あ、神田くんだー」
「何だそのリアクション」

ようやく折り畳み傘を手で確認した頃、下駄箱から靴を引っ張りだす神田くんと目が合った。

「神田くんこそまだ帰ってなかったの?」
「部活長引いた」
「そっかぁ、お疲れさまー」
「そっちは」
「わたしも部活ー。部室で筋トレしてたら盛り上がっちゃったよ」
「何してんだよ」
神田くんはそう言って、少しだけ眉を下げて笑った。神田くんの貴重な笑顔を拝めただけで、わたしは思いがけず嬉しくなって、えへへと笑った。

「あ、やべ、」
「え、どうしたの」
「傘忘れた」
「あちゃー、結構降ってるよ。部室に置き傘とかないの?」
「…面倒くせぇ」
「そっかぁ…」
神田くん、見るからに面倒臭がりそうだもんね。特に自分のことに関しては。

「神田くん駅まで行くんだっけ?」
わたしの問いに、神田くんは雨空を見上げたまま頷いた。
「じゃあ入れてってあげるよ、折り畳み傘だから狭いけど」
わたしが傘をばさっと広げると、神田くんは目を丸くして、視線をわたしに移した。それから、何故か一歩後ずさりして、

「………いい」
「ちょ、そんな露骨に避けなくても…!」
なんか地味にショック!
「水玉模様の傘がそんなに嫌ですか」
「いや、そうじゃなくて…」
神田くんは大層複雑な表情で頭を抱えだした。


「…やっぱ、置き傘取ってくる」
「あ、そうですか…」
神田くんはふい、と曲がれ右してぺたぺたと靴下のまま廊下を歩きだした。



…まぁ、いいんだけどね。わたし別に神田くんの彼女でも何でもないしね、いきなり相合傘とか言われても困るのが普通だしね。

「…別に、いいけどさ…」
なんとなく不愉快になって、一人でぐちぐち呟きながら、わたしは水玉模様の傘をさしてとぼとぼ歩きだした。足元にある小さな水溜まりもどうでもよくて、えいっと水を小さく蹴りあげた。








―ばしゃんっ、

「っ、」

足元に散らばる水しぶき。
ぐいっと、勢いよく後ろに引っ張られる身体。
うまくバランスが取れなくてぐらついたわたしは、とす、と温かい何かに受け止められた。




「っ、…やっぱ、入れて」


息も途切れ途切れの神田くんが、耳元でそう言った。


「…しょうがないなぁ」

わたしはまた、えへへと小さく笑った。
神田くんは、「…何笑ってんだよ、馬鹿」と小さく呟いて、がしがしとわたしの頭をかき乱した。





しずくあめ
(水玉模様のきみが好き!)




***

神田さんのキャラが掴めない。
しずくあめ、ラビさんバージョンとアレンさんバージョンも書きたいな。

拍手ありがとうございました◎
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