dgmこびん | ナノ
『プラシーボ効果』って、知ってる?
そう言って僕は、いつもみたいに、にこりと彼女に笑いかけた。そうしたら彼女は、いつもみたいに僕を見て身体を震え上がらせた。ひきつった表情と、恐怖で揺らぐブラウンの瞳が、いつもいつも、僕を魅了してやまなかった。
「ねぇ、聞いてる?なまえの耳、ちゃんと機能してる?」
「…ぃや、だ、っ…」
じり、じり。縮んでいく距離すらも、いとおしい僕。対称的に、それを全身で拒むなまえ。親切に気遣ってやったのに、なまえは必死に自分の肩を抱えているだけだった。
…そうやって、自分を守ることしかしないなまえ。だからみんな、愛想を尽かせてなまえから離れていったんだよ。
可哀想な、なまえ。
馬鹿で無神経で、可愛い、なまえ。
「…ええと、何の話だったかな…そうそう、『プラシーボ効果』の話。学のないなまえには、ちょっと難しい質問だったかな?」
僕は笑顔を崩さないまま、ポケットからあるものを取り出した。僕が1ミリでも動けば、そのたびになまえがびくり、と肩を揺らす。その反応が愉快で、滑稽で、ムカつくくらい愛くるしい。
「たとえば、これを『ただの飴』だと言って渡しても、これは『ただの飴』でしかない」
「…だけど、『病気が治る薬』だと言えば、これはそれと同等の効果をもたらす。分かりやすく言うと、偽薬効果。」
要はね、人は先入観でいくらでも騙されちゃうんだよ。可笑しいよね。馬鹿みたいに単純だ。
「…この飴は、『ただの飴』かなぁ、『元気になる薬』かなぁ、それとも、」
毒薬、かなぁ?
もしそう言ってなまえに食べさせたら、なまえは死んじゃうのかなぁ?
「……っ、」
…ああもう、そんな顔しないでよ。また好きになっちゃう。そう言ってくすくすと笑う僕に、なまえはいよいよ均衡を保てなくなって、がくん、とその場で足を崩した。
「ふは、腰、抜かしちゃった?」
可笑しいね、さっきまで「帰して」しか言わなかったなまえが、今度は自分でここに居座ることを選択するなんて。
…あっ、違うか。そうするしかできなかったんだ。
あーあ、本当に可哀想。
「…ねぇ、なまえ」
ぎゅう、と抱き締めてやると、なまえは「…や、っ」と、小さく小さく身じろいだ。僕は緩む頬を抑えられなかった。
「僕は、…僕だけは、ずうっとなまえのそばを離れないからね」
だから、強がらないで。
どんななまえでも、構わないよ。それこそ、一緒に死んだって、構わないんだ。
ころり。
口に含んだ飴が、僕の気持ちを反映するみたいに、踊りだす。
…ああ、そんな顔しなくても、分かってるよ、
この飴はちゃんと、なまえにあげる。
「…もっともっと、愛してあげるね」
大好きなんだ。きみが僕を好きなのと同じくらい。
彼はそれを『プラシーボ効果』と嘯く
(騙し愛、でしょう?)
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ありがちな、歪んだ愛し方をするアレンさん。難しい…なんかよく分からない…。やっぱりけいは、優しいアレンさんが好きです。すみませんてへ…
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