dgmこびん | ナノ


今回のお話は、短編の「慰め下手な後輩くんへ。」の続きのようなものです。バイト先の生意気な後輩アレンさんに振り回される女の子です。短編のほうもよろしければどうぞ!(ちゃっかり宣伝)


*・゚
【慰め下手な後輩くんへ。2】



「ええ〜っ!?じゃあアレンくん、今彼女いないの!?」
「そうなんですよ」
「意外ー!アレンくんモテそうなのに〜!」
「そ、そんなことないですよ、僕なんて全然…っ」
「きゃー!照れてる!アレンくんかわいいーっ!!」
「か、からかわないでくださいよっ!」
「「かわいいー!!!」」


……何だ、あのピンクな集団。さっきからきゃーきゃーうるさいんですけども。ちょっと店長ー!あの子たちバイト中なのに無駄話してまーす!!

「こらこら、あんまり『かわいい』とか言われると、男は傷つくんだよ、なっ?アレンちゃん!」
「店長まで!からかわないでくださいよほんとー!」


ちょ、てんちょー!!?何であなたまで便乗しちゃってるんですか!?いくらお客さんの少ない時間帯だからってホールをわたし一人に任せないでくださいよ泣きますよ!?

「すみませーん」
「あっ!はいっ、只今お伺いします!」
本当に泣いて迷惑かけてやろうかと一瞬思った頃、奥のテーブルにいたお客さんからお呼びがかかった。
「お水ください」
「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
駆け足で水のポットを取りに行きながら、未だ『アレンくんかわいい話』に興じている面々を盗み見た。


……何よ、デレデレしちゃって。君の隣にいる女子大生のミカちゃんとチヒロちゃんは、そりゃあ華があってメイクもちゃんとしててかわいい女の子ですけど。わたしなんかと違ってね。すみませんね庶民でね。庶民はせいぜいお城に行く前のシンデレラのようにせっせと働きまくりますよ。ミカちゃんたちと同じ時給だけどね!


「おまたせいたしましたー」
お客さんのコップに水を注いでいると、
「君も大変だね、さっきからこのテーブルに来てくれるの君だけだよ」
「はぁ、すみません…」
いやもう、ほんとすみませんこんなのが何度もこちらにお伺いしてしまって。
「違う違う、働き者だなぁと思って。偉いよね、大学生?」
「え、あ、はい」
偉いね。そう言って優しく微笑むお客さん。よく見るとなかなかのいけめんさんでした。うわぁもう、その一言に救われます!

「ねぇ、いつも何曜日にバイト入ってるの?」
「へ?」
「どこの大学?このへんだとF大とか?」
「えっと…」
ぐいぐい質問攻めをしてくるいけめんさん。これは、答えていいものでしょうか。

「すいませーん」
これまた違うテーブルからお呼びがかかった。どうせあの人達は出ていかないだろうから、わたしが行かなくては。

「あの、すみません、仕事がありますので…」
そう言っていそいそと去ろうとする、と、


「待ってよ、」

ぐいっ、と腕を思い切り引かれた。
「わっ、」
ばしゃんっ、

手に持っていたポットをテーブルに落としてしまった。

水浸しになってしまった、料理。



…うそ、やっちゃった。
サー、と顔から血の気が引いた。

「あちゃー」
「…す、すみませんっ!今すぐにかわりのものをっ…」
「ちょっとちょっと!何やってんの!?」

どたどたと、荒々しい足取りで店長が走ってきた。
「大変申し訳ございません!こちらのバイトの不手際で…」
店長だって仕事サボってたくせに!そんな言葉が喉まで出かかったけど、お客さんの手前、そんなことはどうでもいいのだ。
「すみません、でした…」
「いいから、もう君は上がりなさい」

店長にそう言われ、逃げるようにして休憩室へ向かった。



その一部始終を、彼に見られていたことも知らずに。






バタンッ、

思いきり休憩室のドアを閉めて、部屋の隅にずるずるともたれながらしゃがみこんだ。


わたし、悪くないもん。あのいけめんさんがいきなり引っ張ってきたからだもん。そもそも、店長やみんなが仕事してくれないからだもん。

「…っく、ひっく…ぐすっ」

くそう、何で今になって泣いてるのよ。かっこわるい。情けない。

膝に顔を埋めて、大学生にもなって悔し泣き。こんなところ、誰かに見られでもしたら…



ガチャ、
「…何やってるんですか、まったく」

…高校生の男の子にしては、ほんの少しだけ幼い声が、ドアのほうから聞こえた。顔を見なくても、アレンくんだと分かった。だから、わたしは顔をあげなかった。

「顔くらいあげたらどうですか」
「…やだ、」
「さっさとそのぐちゃぐちゃの顔を拝ませてくださいよ」
「やだ、誰が拝ませるか、ばか…」

はぁ、と大袈裟にため息をついて、わたしのほうに近づいてくる音が聞こえた。
静かに、わたしの前でしゃがみこんだアレンくん。何であなたまでしゃがむのよ、さっさと仕事に戻ってよ。

「…僕、これで上がりなんです」
心の声を読み取ったらしく、アレンくんは答えた。そうですか、ならさっさと着替えて上がってください。


「…何とか言ったらどうなんですか」
「…何を言え、っていうのよ」
「あの客に迫られたせいなんだ、とか」
「……何で、見てるのよ」
迫られたんじゃないもん、ちょっと腕掴まれただけだもん。

「…ミカちゃんたちをはべらして、デレデレしてたアレンくんに、言われたくない、もん」
「何ですかそれ。ヤキモチですか」
「違うわ、自惚れないでよばか」
こっちはホールを一人であたふたしながら回してたんだ。あなたたちが楽しそうにおしゃべりしてる間に。

「…ちょっと客に気に入られたからって、自惚れてるのはそっちじゃないですか」
「…は?」
「ちょっとほめられたくらいで、顔緩ませちゃって。いい歳して単純なんですね」

いら、いら。
こみ上げてくる、怒り。

何で、アレンくんにそこまで言われなくちゃいけないの。


「あの客だって、どうせろくな男じゃないですよ、あなたみたいな人に声をかけるなんて、見る目を疑いますね」

「……いい、加減にしてよ、」
思わず、顔を上げて、アレンくんを睨みつけた。いくらなんでも、言い過ぎだと思う。
「何なの、さっきから、そんなにわたしが気に入らないなら、さっさと着替えて帰ればいいじゃない」
顔を上げたわたしに少し驚いた様子のアレンくん。ぼろぼろ、涙が零れてくる情けない顔で、それでもわたしはアレンくんを睨んだ。

「…あのお客さんは、アレンくんにそこまで言われる筋合いはないよ。わたしが、どんくさかっただけ、だもん」



「……だったら、さっさとバイト辞めて、あの客と付き合ったらいいじゃないですか」
「………っ!」

あまりにも、冷たい言葉を吐いたアレンくん。

ぎゅ、と右手を握りしめた。




どんっ、

「…った、」
「…ふざけ、ないで…っ!」

悔しくて悔しくて、握りしめた右手をアレンくんの胸に思いきり叩きつけた。何度も、何度も。

「なんでっ、そんなこと、ばっか…っ、言うのよっ、ばか、」

泣きじゃくりながら、何度もアレンくんを叩いた。力なんて入らないから、強くなんて叩けないけど、それでも、悔しかった、その気持ちを、ぶつけた。

ぱし、と、いとも簡単に掴まれてしまった手首。

「……なんで、アレンくんが、『辞めろ』なんて、言うのよ…っ!」

だって、だって、


「…アレン、くん、でしょ…っ」
「…え、」



「…わたしのこと、もっと、知りたい、って言ったのは、…アレンくん、でしょ…っ!」


そうだ。彼は先日、バイトが上手くいかなくて悩んでいたわたしに、そう言って引きとめてくれたのだ。そんな彼が、今度は、わたしに『辞めろ』と言った。あまりにも、軽々しく口にした。

「…まだ、わたしのこと、なんにも、知らないくせに…っ、『辞めろ』とか、言うなっ、ばか…っ」

なんにも、知らないくせに。わたしのことなんて。
わたしが今、どんな気持ちかなんて、知らないくせに。





「……っ、反則でしょ、そんなの」

そう小さく呟く声がして、その直後、ふわりと、温かい腕に、自分の身体が包まれていた。

「もうだめだ、限界だ、抱きしめていいですか」
「…もう抱きしめてるじゃない」

何なんだ、この男。先日からセクハラが過ぎるんですけど。

「…いい加減泣きやんでくださいよ、色々我慢できなくなるんで」
「(我慢って何だ)…じゃあ、離してよ」
「それは無理です」
「なんでよ」
「……じゃあ、キスしていいですか」
「だめに決まってるよ何言ってんの!」

だめだ、って、言ってるのに、額に、柔らかいものが当たった。

「とりあえず、今度あの客が来たときは僕が対応します」

だからもう、僕の前以外で、そんなかわいい顔見せないでくださいね?



そう言って、勝ち誇ったように微笑んだ彼に、わたしは言い返す術をなくしてしまった。



(……だめだ、勝てない…っ!)
(…あの客、今度来た時は、料理にタバスコ仕込んでやる)







おわり。
やきもちやきあう二人がかわいいと思う。

長くなってすみませんでした。

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