dgmこびん | ナノ

細身だけどしっかりした身体に、大人びた表情をする反面、どこかあどけなさの残る雰囲気。奥の奥まで覗けそうな、ひどく透き通った2つの瞳。雪のなかで育ったような白肌。まるで、生クリームのケーキに、ストロベリーソースをかけたような、その赤いライン。赤い星。ホワイトソーダ色のしなやかな髪は、男子にしては少し長くて、その長い前髪は時々ピンか何かで耳の横にまとめて留められている。かわいいね、と褒めれば、ばかにしてるんですかと、なぜか棘のある返答。そのふくれっ面でさえも、笑って流されてしまうほど効果がないことを、彼は知っているのだろうか。



15歳で
世界のために戦うことを決めた彼。

たった15歳で
自分の行く末を見据えた彼。




彼の決意は崩れることなく、それから幾年か経った現在、尚も彼は戦い続けていた。終わりの見えない、うんざりするほど長ったらしいこの戦争を、彼は脇目も振らずにただ真っ直ぐに見つめていた。戦った。それが僕の役目なんです、と、笑顔さえ浮かべた。何度も怪我をして、血を流して、痣を作って傷を作って、文字通り、何度も死にそうになった。それでも世界のために、彼はたったひとつしかないその命を、惜しげもなくその世界に晒してみせた。いつ誰にそれを切り刻まれるかも分からないのに、それでも彼は、「世界のために」、喜んでその命を差し出した。


わたしは彼が嫌いだった。まるで、「死ぬことなんて、ちょっとかゆいくらいですよ」と言っているかのようなその態度が気に入らなかった。自己犠牲が僕の信念ですとでも言うのだろうか。馬鹿馬鹿しい、そんなきれいごとの塊が、よくもまぁ今まで生きてこれたなと心底呆れる。

アレンは、ばかだよ。

そう言うと、彼は一瞬怪訝な顔をしてみせたけど、すぐにわたしの言葉の裏を読み取って、やんわりと微笑んでみせた。むかつく。その笑顔も余裕も、大っ嫌いだ。

世界のために、世界なんかのために、そこまでするなんて、ばかみたい。世界は、それほどの価値があるとでも言うのだろうか。確かに世界がなくなれば、わたしたちも生きてはいけないのだろうけど、だからって、アレン一人の命で、世界のすべてが救えるだなんて到底思えない。なんておこがましい。


「そうですね、僕だって、そこまでできた人間じゃないことくらい、分かってますよ」

彼は優しく、だけど芯の通った声でそう言って、包帯と点滴の管で賑やかなその腕をゆっくりとわたしに伸ばしてきた。熱くもなく、冷たくもないその右手は、わたしの腕をぎゅ、と掴んで引き寄せた。それはベッドに臥せている人間とは思えないほど強い力で、油断していたわたしは彼の胸に飛び込んだ。もちろん、わたしの意思ではない。


「それでも、僕はエクソシストなんです」

「そんなの、知ってるよ」

「戦って世界を救うのが、僕たちエクソシストの役目です」


エクソシスト。AKUMAを破壊し、世界の終焉を企む千年伯爵と戦う、聖職者。神に選ばれた、尊い存在。
そして、

どこぞの正義のヒーローを気取ったかのような、驕り高ぶった愚かな存在。


叶うことなら、エクソシストになんか、なりたくなかった。
そんなことを言えば、教団のみんなはわたしを軽蔑するだろうか。
神様は、わたしを裏切り者と見なすだろうか。


「どうして、わたしたちは、エクソシストになんか、ならなくちゃいけなかったの」

答えてみせてよ。そのわたしのすべてを悟ったような表情で。


「そんなの、僕が答えられるはずないでしょう」
彼はそう言って苦笑した。
「勝手にエクソシストなんかに選ばれて、命懸けで戦わなくちゃいけなくて、それでも、どうしてアレンは笑っていられるの」

「これが、僕の存在意義だからです」


それほどまでに悲しい存在意義を、わたしは今まで一度も聞いたことがなかった。悲しいくらいに儚くて強い彼を、どんな言葉を用いても括ることができないと思った。


戦えない彼は、彼ではないと言うのか。



「…そんなの、悲しいよ」

どうして、そんなに悲しいことばっかり言うの。そうやって優しく微笑んで、残酷な言葉を吐く彼の口を、わたしは強引に唇で塞いだ。一瞬驚いた彼は、それでもすぐにわたしの唇を受け容れて、包んで、味わった。


「…ごめんね、なまえ」

彼が何に対して謝ったのか、なんて、この際どうだっていい。ただこの温度を、生きている証を、確かめたかった。

「ごめん、心配かけて、ごめん」

ぎゅう、と、力の入らないはずのその左手で、彼はわたしを閉じ込めた。鼻をかすめたのは、いつものアレンの匂いじゃなくて、アルコールとか、エタノールとか、卸したての包帯の匂いがした。それから、血の匂い。



彼を、ここまでボロボロにしたのは、誰?

それでも彼は、静かに微笑んでその事実を受け止めようとしていた。
けど、




わたしは、絶対に許さない。




かみさまなんて、

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