dgmこびん | ナノ

「…まったく、無様なもんですね。そのパジャマの柄は何なんですか、いい歳してイチゴ柄って、ははっ、センスを疑いますよ」
「お見舞いにきたのか冷やかしにきたのかどっちですか!」

このパジャマはお母さんが買ってきたの!
そう声を荒げたなまえに、近くにいた看護師から「こらっ、静かに!」と声が飛んできた。「すみませーん…」と零して、しょんぼりと大人しくなったなまえを見て、内心、ちょっといい気味だと思った。









クラスメイトのなまえが入院したのは、つい2日前のことだった。

中学・高校と一緒のクラスで、腐れ縁というのだろうか、とにかくいつでも一緒につるんで、くだらないことで笑いあったり喧嘩したり。それは高校3年になった今も変わらなかった。
元気が取り柄、いや、むしろ元気しか取り柄がない人だったから(それこそ、風邪だって滅多にひかないくらいだ)、入院したと聞いたときは、自分の耳を疑った。
だけど今こうして、パジャマ姿のなまえが大学病院の入院病棟にいて、しかも点滴の真っ最中というオプション付きで。この目の前の現実が何よりも疑いようのない真実なのだと思った。

「急に入院だなんて、何の冗談かと思いましたよ。あ、これお見舞いのプリンです」
「やったー、ここのプリン大好きー」
「あ、残りの4つは僕の分ですからね」
「わたしの取り分少なっ!」
「嫌だなぁ、病人は適度な食事が基本でしょう?点滴終わったらゆっくり食べてください」
そう言ってプリンのカップを手に取ると、なまえは「くそぅ、何だこの焦らしプレイ…」と呟きながら、悔しそうに俯いた。



ちょっと厄介な貧血なんだって。
入院した理由を尋ねて、なまえから返ってきた言葉。何ですかその曖昧な理由は。
「専門的なことは、わたしにもよく分からないよ」
「自分の身体のことでしょう?なまえが一番よく分かってることじゃないですか」
「分からないもんは分からないのよー。でも、点滴やたら打たれるし、検査だからって一日に何度も採血されるし、もうわたしのきれいな腕がボロボロですよ」
そう苦笑して、なまえは左腕を捲りあげて僕にずい、と差し出してきた。
「…大丈夫ですよ、さして変わりありません、こんな山芋みたいな腕」
「いたたたたたた、ちょ、汚いものつまむみたいな持ち方しないでいたたたた、山芋ってなかなか出てこない表現だよねいたたたたた!」
僕に腕をつねられ、涙目でその腕をさするなまえ。


なまえの腕は、もともと白くて細かったのだ。それが今は、あちこちに青紫色の痣を作り、ところどころミミズ腫れのように赤く線を作っている。
それは、とてもとても、信じられない光景だった。

どうして、彼女がここまでされなきゃいけないんだ。
答えの返ってこない質問を、僕は心の中でどこに向かうでもなく投げかけた。



「ねぇ、アレン」
ようやくプリンにありつけたなまえは、スプーンを動かしながら僕を呼んだ。
「みんなは、元気?」
「…相変わらずですよ。ラビはちゃっかり推薦で合格しちゃったし、バ神田は志望校の合格率が上がらないし」
「あは、がんばってるのにね神田」
「…早く戻ってこないと、なまえも同じ目に逢うんじゃないですか」
「うわ何それ!焦るようなこと言わないでよー」

「……みんな、なまえのこと、待ってるんですよ」
「…そっかぁ、じゃあ、早く退院しないとだね」
そう言って、小さな子どもみたいに、にへ、と笑った。






***

「…でさぁ、ひでぇのユウの奴!オレの合格は何かの手違いだとかほざきやがってさー」
「『僕の将来の夢は総理大臣です』なんて、今時小学生でも志望理由に書かねぇよ」
「それで通っちゃうんだから、不思議よねー」
「ちょ、リナリーまでひどいさ!オレめっちゃ本気!」

ぎゃあぎゃあと騒がしくしゃべるラビ達に、お腹を抱えて笑うなまえ。通りすがりの看護師に、「こらそこー、ここ病院だからねー!」と遠回しに注意された。すみません、僕の周りの人たちが毎度騒がしくて。
「…はぁ、笑った。ラビばかだね」
「『今日はいい天気だね』みたいにさらっと言うなよなまえ!」

「いいなぁ、わたしも、みんなと一緒に受験したかったなぁ」

ぽつりと呟いたなまえに、誰もが一瞬口を閉ざした。
「センター試験まで、あと2週間でしょ?みんなこんなところにいて大丈夫なの?特に神田」
「…うるせぇバカなまえ。いいからてめぇは自分の身体の心配でもしてろ」
「そうよなまえ。みんなで受かって、大学生になるんだからね」
「わたしきっと、センターまでに間に合わないよー」
「だったら私立の一般入試で這い上がってこい」
「あはは、そだねー、がんばるよ」
せっかくみんなのノート、コピーさせてもらったんだしね。
なまえがそう笑った直後、「みょうじさーん、検査行きますよー」と、看護師の呼ぶ声がした。
「ごめん、今日ちょっと長い検査なんだって。みんな暗くならないうちに帰ってね」
ばいばい、と僕達に手を振って、ガラガラと点滴を引きながら検査に向かっていった。


「……何で、あいつなんさ」

しんとなった病室に、ラビの呟きが溶けた。

「何でなんだよ、ついこの間まで超健康体だった奴が、何で急に…」
「今日だって、元気そうじゃんか。一体なまえのどこがおかしいっつうんさ」
「…大丈夫、なのよね?すぐに治る病気、なんでしょう?」

一変してしまった空気に、それ以上、誰も言葉を紡げなかった。何を言ったって、どうせ答えは返ってこないと分かっているから。
眉間に皺を寄せて俯くラビに、舌打ちをして窓の外を眺める神田。膝の上で、ぎゅっとスカートを握りしめるリナリー。その中で、おかしいくらい冷静な僕。お得意のポーカーフェイスは、もう習慣になっていた。





***

『ご家族以外の面会はご遠慮ください』


「……なんだ、これ」
なまえが入院してから1週間。予想以上に長引く入院だと危惧し始めた頃、病室の入り口で不可解な貼り紙を見つけた。

「もしかして、みょうじさんのお友達?」

病室の前で立ち尽くしていると、背後から看護師に声をかけられた。僕はゆっくりと頷いた。
「今ちょっと、病室に入れないのよね」
「あの…なまえ、どうかしたんですか…?」
「うーん、ちょっと熱が上がっちゃってね、みょうじさん以外にも同じ病室で何人か微熱っぽいから、面会を制限しているの」
ごめんね、と看護師が言葉を返した直後、病室から「アレン…?」と、弱々しい声が聞こえた。
慌てて病室を覗くと、明らかに体調の悪そうななまえが、点滴を引いてこちらに向かってくるところだった。
「あー、やっぱりアレンだぁ」
「ちょ、何やってるんですか!熱あるなら寝ててください!」
「大丈夫だよー。千葉さんが大袈裟なんだよ」
ねー、千葉さん?
なまえはそう言って看護師に目で訴えた。どうやらこの看護師が『千葉さん』で、この人の判断で面会が制限されているようだ。


――
「…まったく、無茶しないでくださいよ」
「ごめんごめん、解熱剤もらってるからもう大丈夫だよ」

10分だけよ、と千葉さんに釘を刺され、マスクを着用して入った病室。来るたびになまえの私物が増えていて、ここが今のなまえの生活拠点なのだと思わされた。

「…で、センター試験まで1週間切ったのに、こんなとこにいるアレンさんは、さぞかし余裕がおありなんですね」
「ええ、おかげさまでかなり余裕です」
そう言ってにっこり微笑むと、皮肉が通じずに悔しがったなまえ。
「だって、みんなが受験受験ってなっていれば、なまえが寂しがると思って」
僕がそう言った瞬間、「な…っ」と言葉を詰まらせて、それから、有り得ないくらい顔を赤くした。もちろん、熱のせいだけではない。…こういうところがあるから、からかいたくなるんだ。

「……病人をからかうのは良くないと思うよ」
「あは、すみません」
「そんな薄っぺらい謝罪初めて聞いたよ」

せっかくプレゼントあげようと思ったのに。
なまえはぶつくさ言って小さな引き出しを開けた。

「これがリナリーの分で、これがラビ。あとこれが神田」
ぽんぽんと次々僕に手渡していくそれは、何やら小さなフェルト生地だった。
「で、これがアレンの分」
終わりを意味するように、ぽんっと強めに渡してきた。

「…何ですか、これ」
「見たら分かるでしょ、お守りだよ」
いや、分からないし。こう見えてなまえはなかなか器用ではあるが、裁縫という女子ならではの技術に関してだけは器用とは言い難い。何だこのフェルトの塊。
「みんなの受験が上手くいきますように、って思って。点滴の合間でちくちく縫ってた」
「…そんな暇があるなら、なまえも勉強した方がいいんじゃないですか」
なまえは僕の言葉に、ただ苦笑いを浮かべるだけだった。はぐらかされたような気がして、僕は少しだけ苛ついた。
「……もしかして、もう諦めてるんですか?」
少し低くなった僕の声に、なまえは少しの動揺も見せず、ただ「えー?」と言ってやんわり笑った。
「…はぐらかさないでください」
「はぐらかしてなんかないよー」
ポーカーフェイスは僕の特技だったのに、今はなまえがそれを特技としているかのようだ。僕は苛立ちが自分の表情に出始めているのを感じた。
「僕、言いましたよね。みんななまえを待ってるって。リナリーも、みんなで受かって大学生になろうって言ってましたよね?」
「うん、そうだね」
「…だったら、どうしてそんな諦めたような顔してるんですか!」
まるで僕が一人で熱くなっているような気分だった。それをなまえが笑顔で宥めているような状況。僕の苛立ちは募るばかりだった。

受験生という、僕らと対等な立場であるはずのなまえは、今はまるで、後ろから僕らを見送る立場であるかのように振る舞う。その振る舞いが意味するものなんか、僕は考えたくはなかった。



「……入院がね、また長引くんだって」

僕の苛立ちの意味を理解したなまえが、僕に話してくれた、真実。

「今回の熱もね、免疫力が低下しているからだって先生が言ってた」
「……そんなに、悪いんですか…?」
「分からない。先生も『様子をみましょうね』しか言ってくれないもん。お母さん達には話してるのかもしれないね」
なまえは、淡々とそんなことを話した。本当は、漠然とした不安でいっぱいなはずなのに、それでも彼女は表情を崩さなかった。ただ時々、熱のせいで息を乱したり、けほ、と軽く咳をしていた。

「…センター、がんばってね。応援してるから」
笑顔で送り出してくれた彼女を何度も振り返りながら、僕は病室を後にした。握り締めたフェルトのお守りが、やけに温かかった。





***

センター試験を全て終え、僕達はその足で彼女の病院へ向かった。一人ひとり、フェルトのお守りを身につけたまま。


「……あれ、なまえは…?」

病室に、彼女の姿はなかった。それどころか、彼女の私物の一切や、ネームプレートまでもが、綺麗にその存在をなくしていた。


熱を出したあの日以来、なまえの熱は1週間下がらず、個室病棟に移ったらしい。

嫌な予感が的中し、僕達はただ重い足取りで彼女のもとへ向かうことしかできなかった。


「…あー、センター試験お疲れさまー」
間延びした声で出迎えてくれた彼女は、相変わらず点滴に繋がれていて、まだ微熱の残る表情だった。
「…おー、大丈夫かー?」
「だいじょうぶだよー、あ、お守り効いた?」
「ばっちりよ」
「そっかぁ、リナリーは大丈夫だと思うけど、神田に効くといいなぁ」
「うるせぇ、……平均点ぐれぇは、いくだろ」
「あはは、だといいねー」



面会時間が終わり、僕達はなまえの病室を出た。誰もが、個室に移った彼女の事実を受け止めきれていなかった。





***

「…公立大、受かりました」
土曜日のお昼時。今日のなまえは、まだ微熱が続くものの、幾分か調子がいいようだ。顔色もよく、食事も取れている。自宅に戻って着替えを取りに行っているという彼女の母親に「ゆっくりしてて」と念を押され、代わりに彼女の食事を見ていた。僕の合格を知った彼女は、「おお〜!やったね!!」と、まるで自分のことのように喜んだ。それが少し歯痒くて、僕は上手くリアクションを取れなかった。
「アレンもこれで大学生かぁー」
「…なまえに、渡したいものがあるんです」
僕は鞄からいくつかの書類を出して、彼女に手渡した。
「今からでも受験できる大学の出願書です。先生に頼んで用意してもらいました。このへんがなまえの志望学科もある大学で、ここは自宅受験もできるところで、」
「アレン、」
ばさばさと、書類を広げて説明する僕の手を、彼女がゆっくりと制止した。

「…もういいよ、ありがとう」

にこ、と彼女らしからぬ上品な笑みで、なまえは僕に手渡された書類を返そうとした。

「…もういい、って、どういうことですか」
「だから、もういいよ、って」
「それじゃあ分かりません、ちゃんと言ってください」
書類を返してくる彼女の手を、今度は僕が掴んで制止した。じっと彼女を見つめると、困ったように笑って、それから少しだけ俯いた。

「…アレンだって、分かるでしょう?わたし、受験なんかできる状態じゃないんだよ」
「そんなの、まだ分かりません」
「分かるよ。今の時期に、個室で入院している人が、すぐに退院して受験なんかできると思う?」
「…絶対間に合わない、なんて言い切れない」
「アレンお願い、分かってよ」
「嫌です。なまえが諦めていても、僕は諦めてなんかいません」
彼女の腕を掴んだまま、ぎゅっと力を込めた。困らせていることなんて分かってる。だけどこれは僕の意地でもあるのだ。

「なまえ、」


僕は彼女の先生でもないし、親でもない。彼女が受験して、絶対に受かってほしいだなんて、思っていない。
ただ、僕は、彼女に諦めてほしくないのだ。

本当は、受験なんかどうだっていい。

「追いつきたい」「生きたい」と、ただそう願って足掻いてほしいだけなのだ。
彼女も僕も、同じ立場で、喜びや悩みを共有して、そうして、今までみたいに笑いあっていきたいだけ。



ねぇ、なまえ
追いつこうとしていたその足は、いつから進むことをやめた?


「…もっと、足掻いてよ、なまえ」

お願いだから、いつものように、「負けないんだから!」って僕と張り合ってよ。




「……もう、疲れたんだよ」

いつの間にか、顔が見えないくらい伏せていたなまえ。情けなく零れた声は、別人のように弱弱しかった。

「もう、嫌なの。もうがんばれないよ、だって、アレン達に、追いつけないんだもん、もう、嫌だよ」


入院してから、いや、彼女と知り合ってから、初めて聞いた弱音だった。小さな子どもみたいに、ただ嫌だ嫌だと繰り返し呟いた。

「……何泣いてるんですか、」
「やだよ、アレン、もう嫌なのっ、」
「…分かったよ、」
「…ふ、っ、アレン、あれ、んっ、」
「ここにいます、大丈夫ですよ」
嗚咽を漏らして泣く彼女の腕を離して、空いた両腕で彼女を思いきり抱きしめた。だけどそれだけじゃ足りなくて、僕の気持ちも一緒に溢れてしまいそうで、まるですがりつくみたいに、両腕にぐっと力を込めた。それでも足りなくて、彼女の腕をもう一度掴んで、僕の腰に巻きつけた。彼女が苦しがるのも構わず、その細い身体に僕の気持ちを流し込んだ。ずっと。ずっと。

ああ、どうすれば、彼女をずっと繋ぎとめておくことができるのだろうか。ずっとこうしていれば、彼女を繋ぎとめていられるだろうか?


「なまえ、」
「……ひ、っく、アレ、ん、」
「なまえ、なまえ、…っ」

まるで壊れた機械みたいに、何度も何度も、互いの名前を呼んだ。そうすることで、また存在を確かめて、そしてもう一度呼んだ。

それでもまだ足りなくて、僕はなまえの髪を掬って、耳にかけた。彼女はそうした僕の手の上に自分の手を重ねた。重ねあった手は、二人の間にゆっくりと降りて、そのままぎゅっと握った。
彼女を、見た。彼女は泣き腫らした両目で僕を見た。

吸いこまれていくように、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
少し離しては、また重ねて。何度もそうして、角度を変えて、彼女の温度を確かめた。


「…待ってるから」

ただ、それだけ言葉を残して、また重ねた。






***

卒業式を迎えても、なまえの姿は学校にはなかった。持ち主のいない卒業証書は、僕の手に不本意ながらも収まり、持ち主へと帰ることを渇望しているように見えた。

「…なまえ?」

ことん、

卒業証書の入った筒は、音を立てて病院の床に響かせた。


いるはずの個室にも、彼女の姿はなかった。それは一般病棟から移ったときのように、彼女の私物やネームプレート、彼女の存在を残すはずのものがどこにも見当たらない、
まるで最初から彼女は存在していなかったのだと思わされるような絶望感を匂わせた。




「…うそ、だろ、」

この間まで彼女が寝ていたベッドは、シーツが整えられ、新品のように真っ白だった。


最後に、なまえを見たのは、いつだった?


あれが、本当に、『最期』?



嘘だろう?嘘だ、嘘だ。何を考えているんだ僕は。そんなこと、あり得ない。だって、彼女は、まだ、息をしていて、笑って、泣いて、そして、温かかったんだ。「アレン」と、僕の名前を呼んで、僕が彼女の名前を呼べば、彼女は反応してくれて。ほら、彼女は、ちゃんと、存在していたんだ。

存在、して いた?



なら、今 は?

彼女は、どこに、行ったんだ?




「……っ、なまえ!!」
大声を出したところで、個室病棟にいる人数なんてほんの少しで。僕はただ当てもなく、彼女の名前を何度も呼んだ。

聞こえているだろう?本当は、すぐ近くにいるんだろう?

「なまえ!」

ほら、聞こえているのなら、また僕の名前を呼んでよ。

「…なまえ…っ、」


嫌だよ

一人で勝手に、僕の前から消えないで。






「呼んだ?」






……は、

「びっくりしたー、もしかしたらと思って来てみれば、そんなとこに座りこんで。何してんのアレン」
「……何、って、」
「あ、ごめんね、実は病室また移ってさー…て、ちょ、アレン?泣いてるの!?」

ほんと何してんの!?と、僕を見下ろして笑いだす、なまえ。


…何だ、一体、どういうことだ。

「……説明してください」
「だから、病状が落ち着いたから、今はまた一般病棟に…って、わあ!ちょ、急に抱きついてこないでよ!アレンさん!?」
「ふざけんなほんと。このうざいパジャマ引きちぎってやろうか」
「ちょっと待ってキャラおかしいよアレンさん!うざいとか言ったなこのやろ!」




…あとから聞いた話だが、あれからなまえは順調に回復し、すぐに一般病棟に戻ることができたらしい。リナリー達はそれを知っていて、わざと僕にだけ知らせなかったらしい。
「リナリーにサプライズ成功したよって言わなきゃだ」
「…もうしばらく入院しててください」
「ひどいなぁ、ちゅーしあった仲なのに〜」
「……」

両手で顔を覆い、しゃがみ込んだまま動かない僕に、さすがに慌てて顔を覗き込んだなまえ。

「…えっと、ご、ごめんねアレン、言い過ぎ、」

ちゅ、

「隙あり」
「…っ!!」
「なまえが来年までに大学に受からなかったら、その身体をめちゃめちゃにして弄んでやりますよ」
覚悟はできていますよね?

そう言ってにっこり微笑むと、なまえは「〜〜…へんたいっ!」と顔を真っ赤にして叫んだ。





呼んだ名前は、その愛を孕んで



彼女が僕の大学に合格して、一緒に肩を並べて正門をくぐったのは、これより少し先の話。







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長くなりました。まさかセンター試験の当日にこんなおはなしを上げるなんて、思ってもみませんでした。受験生のみなさん、がんばって!!


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