dgmこびん | ナノ



思えば、これが僕の望んでいたことでもあったのだ。
なのに、どうして、


ああもう
なんて世話のやけるやつだ、あの馬鹿。




★星飼いが見た夜空に #3




「ラビっ!」
バァン、と、思った以上に大きな音をたてて開かれた扉。
「うお、びびったー、心臓飛び出るかと思ったさ!」
「『あの子』っ、ここに…来て、ません、かっ?」
「『あの子』?…ああ、もしかして、なまえちゃん?ここには来てねぇさ…って、何があったんだよアレン」
「…っ、いなく、なったんです、彼女」
「はっ!?」
全力疾走で丘じゅうを探し回ったが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。最後の砦でもあったラビの家にも、彼女はいなかった。

「…なぁ、もしかして、『星』に戻ったんじゃねぇの…?」

ラビの発言に、僕は息を呑んだ。
「…最近、様子がおかしいなとは、思ってたんです、妙におとなしかったり……あんなに、輝くことを拒んでいたのに、光を纏うようになってきたり、」
「……とにかく、もう一回探してみるしかねぇさ、オレも手伝うから」
「…お願い、します」


あの馬鹿、どこまで行ったんだ。朝起きたときは、いつも僕の布団にもぐりこんでいるくせに。今朝、目を覚ますと、彼女の姿はどこにもなかった。どういうことだ、昨日だって帰って普通にご飯を食べて、スープだっておかわりしていたじゃないか。いつもみたいに、「おやすみ、アレン」って、笑って、ちゃっかり僕の布団に入ろうとして、僕に追い出されて、「ちぇー」って言いながら、自分の布団に入っていったじゃないか。

「…いつもの彼女で、良かったのに…っ」

違う

いつもの彼女が、良かったんだ。


黙っていなくなるなんて、許さない。君は、僕が立派な星に育てて、それから、宙に放つんだ。ひとりで行くなんて、そんなの、絶対に許さない。



「…はぁっ、」
暗くなりはじめた景色。
怒りと疲労でボロボロになった身体は、いつの間にか、昨日、彼女と一緒に来た丘のてっぺんまで来ていた。さっきも探しにきたのだが、どうして、僕はまたここに来てしまったのだろう。

見上げると、きらきら、空じゅうに散らばる星。
昨日、彼女はこの場所で、星を見て「きれい」と言った。家にある星を見ても何とも言わなかった彼女が、初めて星を見て「きれい」と言ったのだ。その様子に、僕は違和感を覚えた。




――ふわ、


丘の片隅を、見覚えのある色が横切った。
銀灰色。
僕の髪の色、星の色。

まさか





「っ……“なまえ”っ!!」

人間に憧れて、自分で勝手につけた彼女の名前。馬鹿らしい、と言って、一度も呼んだことのなかった、彼女の名前。
彼女は僕の声にゆっくりと振り向いて、くりくりの瞳を大きく大きく見開いた。

途端、丘の向こうに走って逃げようとした。

「ばっ…こらっ!!逃げるな馬鹿っ!!」
「やだーっ!こっちくるなばかー!!」

逃げる彼女の腕をがしっ、と捕まえ、それでもばたばたと僕から逃れようとする彼女を、
「…っ、ああもう、いい加減おとなしくしろ、この馬鹿!!」

ぎゅ、と、きつくきつく抱きしめた。


「…アレ、ン、」
「うるさい、馬鹿、いいからおとなしくしてください」
ようやく、おとなしく僕の腕におさまった“なまえ”。

「…どうして、黙っていなくなったんですか」
「………」
「…答えてください」
「………」
「…“なまえ”、答えて」
「…っ、やだ、」
「やだ!?この期に及んで何を言うんですか君は!どれだけ心配かけたと思ってるんですか!?」
「さがしてなんて、いってないもん!」
「はぁ!?何ですかそれ!!」

「だって、アレンは、わたしが早くいなくなったらいいって思ってたんでしょう!?」


……何だ、それ。

彼女はそんなふうに、思っていたのか。



「…わたし、アレンに、嫌われたくなかったの。どうやったら、アレンに好きって思ってもらえるかなって思って、

でも、アレンが優しくなると、身体が光ってくるの。

…怖かったの。
ああ、わたし、もう『星』になっちゃうのかなって
わたしも、空に行かなきゃいけないんだ、って。

アレンと仲良くなればなるほど、アレンとお別れしなきゃいけなくなる日も近くなるんだ、と思ったの。

でも、アレンは、わたしがいなくなったら、お仕事で怒られることもなくなるから、だから、アレンはわたしに優しくしてくれるんだ、って
そう思ったら、なんかね、

…悲しかったの。

だから、もう、『星』に戻ろうかなって…ここにいれば、わたしも、空に行けると思って、」


涙声で、たどたどしく紡ぐ彼女の言葉に、僕はただただ耳を傾けた。


「…まったく、どうして君はいつもそうやって、ひとりで突っ走るんですか」
彼女を抱きしめたまま、僕は呆れてため息をもらした。
「こんな危なっかしい君を、ひとりにするのは、僕だって心苦しいんですよ」
「こころ、ぐるしい…?」
「…怖いし、悲しいです。僕は君と同じ気持ちなんです」
ぽんぽんと、彼女の背中をあやすように宥めると、彼女は身じろいで僕の胸に顔を押し付けた。それが少しくすぐったくて、僕は「ちょっと、何ですか」と苦笑しながら彼女に話しかけた。

「…アレンと、わたしは、同じ気持ちなのね?」
「そうですよ」
「…なんだか、人間になった、気分だよ」
「自分のこと、『ほぼ人間』なんてほざいていたのは、どこの誰でしたっけ?」
「ふふ、……「うれしい」とか「かなしい」とか、「おこる」とか、「なく」とか……何だか、わたしも、人間…みたいだ、ね…」
「……なまえ?」
「アレン、わたし、今ね、…「うれしい」「かなしい」って思って…「ないてる」ん、だ…」
「…そうですね」

「人間って、やっぱり、すてきだね」

彼女が、とぎれとぎれにそう言った瞬間、だった。



銀灰色のまばゆい光が、彼女に集まった。まぶしいほどの光に包まれた彼女は、悲しそうに笑って、僕の腕をほどいた。

「…なまえ、?」
まるで確認するみたいに、彼女の名前を呼んだ。彼女はもう一度笑って、

「…行ってくるね、アレン」

そう、言った。



…いなく、なる。

そう思った。


「待って、なまえ!行くって、どこにだよ!」
彼女の『行先』なんて、本当は分かってた。だけど、だけど、


人間のような容姿だった彼女は、みるみるうちに、小さくなって、

『星』に、なった。


そして、他の星がそうしていたように、ぴかぴかと点滅してから、





夜空に、溶けた。










***

クリスマス。星飼いにとっての決算日。

「よう、アレン」

今夜は星飼いが集まる集会。人で溢れかえる会場で、リーバー班長に声をかけられた。
「ノルマ、挽回できたんだってな。良かったじゃねぇか、クリスマスに間に合って」
「…そう、ですね、これで良かったんですよね」
「…やっぱ、まだ『あいつ』のこと気になってんのか?」
控えめに僕に尋ねるリーバー班長。どうやら、ひどく心配させているようだ。
「……いいえ、彼女を星に育てて放つことが僕の目標でしたし、彼女も本来そうなるべきだったんですから」
いいんです、これで。
そう言って小さく笑ってみせた。
リーバー班長は少し悲しそうに僕を見つめたあと、「そっか」と微笑んで僕の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱した。
「ちょっと、何するんですかリーバーさん!」
「まぁいいから見てろって。おーいみんな!準備はできてるかー!?」
突然、会場じゅうに声をかけたリーバー班長に、僕は何が何だか分からないまま、きょろきょろと見渡した。
「こっちはいつでもオッケーさ、リーバー!」
「こっちも準備万端よ。ね、神田」
「…ちっ、めんどくせぇな」

何なんだ、一体。
「リーバーさん、一体なに…」

「よし、いくぞみんなー!!せーの!!」




 Happy Birthday

 Dear Allen!!





パァンッ、と、あちこちから聞こえるクラッカーの音。飛び散るカラフルな紙吹雪に、「おめでとう!」という大歓声。

「……は、…え、な…?」

未だに頭が追いつかない僕に、次々に運ばれてくる料理やプレゼント。
「アレンくん、お誕生日おめでとう!」
リナリーと神田が、大きなバースデーケーキを運んで僕の目の前に置いた。
「みんなで作ったのよ」
「残したらぶった斬るぞモヤシ」
「神田ちょっと黙ってて」
「ちょ、おま、足踏んでるって、おい!」

がやがやと、みんなの笑顔に囲まれる。


「…ありがとう、ございます」

「あーっ!アレンのやつ泣いてんぞ!」

「うるさいですラビ!
…「うれしい」から、「ないてる」んです」






ねぇ、なまえ
君がよく言っていた
「人間って、すてきだね」っていう言葉
今、すごく分かるんだ。



「今夜の星は、何だか特別輝いているわね」
「…お前のせいじゃねぇの、アレン」

「…そうかも、しれませんね」


夜空を見上げて、僕は小さく笑った。


夜空に浮かんだ、銀灰色の星が、
ひとつ、ぴかぴかと
点滅したような、気がした。






END★.・+。*






************

大変遅くなりましたが、クリスマス企画小説、完結です。
あまりにぶっ飛んだおはなしで、つっこみどころ満載だとは思いますが、どうか許してください。けいのファンタジーなんて所詮こんなクオリティーです。

クリスマス企画かぁ→クリスマスといえば…ツリー?→ツリーのてっぺんのお星様ってすてきよね→星…星を育ててみるとか?→…『星飼い』だ!→じゃあ女の子が星になればいいんだ!

そんな経緯でできたおはなしです。どうなってるんだけいの思考回路。

なまえちゃんを人間にしてあげるかどうか迷ったのですが、星に戻ることもひとつの幸せかな、と思い…ハッピーエンドではなくなりましたが、こんな終わり方も、いいのかな、と。

ここまでお付き合いしてくださったみなさまに、深く感謝いたします。


Merry Christmas
& Happy Birthday Allen.


2010.12.26   Kei.


- 8 -


[*prev] | [next#]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -