あぁ どうかかみさま
片思いな僕に、勇気のクレヨンを!





どんな色がすき?

  「あか」

あかい色がすき

いちばん先になくなるよ

あかいクレヨン






*゚・。*゚*゚・。*゚*゚・。*゚


そういえば。
こんなに赤く染まった君を、俺は今まで見たことがあっただろうか。

や、あったかもしれないけれど、きっと何度も見落としてきたのだろう。

この日課が始まる以前は、何人もの後姿を隔ててから
君の存在を確認していたのだから。



そして赤くなっているのは君だけ・・・ではなく

教室に参列する机やイス、変にグレーがかった壁も
粉っぽい黒板も赤くぼやけて、絶妙な混合色。

壁一面を陣取る深緑の大きな板は、赤の霧をかぶって
何だか季節はずれのクリスマスカラーを連想させた。

赤い服を着た奉仕のおじさんがやってくるまであと半年。





窓側の列、前から3番目。
イスの向きに逆らって跨り、本来背もたれるべきそこに重ねた両手を乗せ、
仕上げに自分の顎を委ねる。

セット完了。



本日で丁度14日目。午後5時開始の、俺の日課。

視線の先に、標的確認。



困ったことに、この標的がこのように隙だらけで突っ伏して眠ることは
もはや習慣化された事実。


声をかけてもゆすっても
窓から入る風にそよりと動く前髪に手を伸ばしても、
なまえはこうべを起こさない。

14日間の経験を通して学習した結果である。



そもそもなまえだって、こんなところで睡眠を取るべきではないことは
重々わかっているのだ。

わかっていてやっているのだ。

少なくとも、俺がこの日課を始めざるを得なくなった14日前からずっと。


かくいう俺も、誰かにこの日課を強制されたわけでもない。
ただ、14日前にたまたま教室に携帯忘れて戻ってきたら
そこになまえが今日みたいに突っ伏して眠っていて

おーい、校舎施錠されたらどうすんだよ、って
声をかけてもゆすっても起きないもんだから
自然に起きるのを、なぜだか見守ってしまっていた。


ただ、眠るなまえを目撃してしまった手前、
万が一施錠されるでもしたら俺の良心が猛烈に痛むから。

ただそれだけの理由で、俺はこの変な日課を14日も続けている。
ほら俺って困ってる人を放っておけないタイプだし。ね。




「なーなまえー。今日の英語でまた寝てただろ」


応えが返ってこない標的に一方的に話しかけるのも、日課。

「俺の席から寝てんのめっちゃ見えるんですけど。
そんで先生がお前に甘いのもわかっちゃったんですけどー」

何で授業中そんだけ寝てて英語上位に入ってんだよ、わけわかんねぇよ、
お前の母国語は日本語じゃねぇのかよこの非国民め、

そう毒ついても、標的は規則正しい肩の上下運動を示すだけ。



「ていうか今日宿題出てたけど、聞いてた?
あの、教科書25ページの下んとこの訳のやつ。

明日の日付的にさぁ、お前当たるんじゃね?
名簿番号で当てんのすきじゃんあの先生」

引き続き、突っ伏したままのなまえに話しかける。
あーあ、知らねぇぞ当たっても。
俺の訳見せたって、どうせまた「これ日本語じゃないよー」とか文句ばっか言うんだからこの子。

ていうか日本語じゃないじゃん、英語じゃん。
メアリーとか出てくんだよこれ。日本人にメアリーなんていねぇよ。
日本語じゃないものを日本語にするんだからそれは正式な日本語ではなくて・・・


なんかよくわかんなくなってきた。

とりあえずさ、




「・・・サッカー部、もう解散みてぇだよ、なまえ」


あざーしたー、と、運動部らしい号令が窓の外から聞こえたのを合図に
ぽつりと小さくこぼす。


んー・・・と呻きながら、なまえは体を動かし始める。

それまで散々俺の口から生み出してきた言葉達の立場は何なんだろう
と、毎回切なくなる。

このくらいの声量で起きられるはずのお前の耳は
ちゃんと日々正常に動いているのですか。このバカが。
もう一生ここで寝ていればいい。


「んー・・・ん?あれー、かれのなまえくんまた一緒にいたの?」

のんべんだらりとした口調で、教室の空気が変わり始める。


「毎日人の寝顔ばっか見てるなんてー、かれのなまえくんのへんたーい」

「うわーうぜぇー」

「うぜぇ言わないでー。もう充分自覚してるからこれ以上惨めな思いさせないでー」

「自覚してんなら改めろよ」

「これでも日々努力してるんですけどね」

嘘つけ、と呟きながらなまえの顔をこっそり確認する。

目頭をこすり、首をコキ、と軽く鳴らせる。
この動作を見るのが、俺は嫌いじゃない。



「え、ていうかサッカー部終わったよね?」

まるで窓に話しかけるように駆け寄り、外を覗く。

「先輩帰ったんじゃね?」

「え、嘘やだどうしよ・・・・・・
って普通にいるじゃんボールと仲良くしてるじゃんかれのなまえのばか」


「お前、好きならそこは3秒以内に見つけろよ」

「うるさい、そこに3秒ルールは存在しません」


早く行かないと同じバスに乗れないんだよー、と呟きながら鞄に手を伸ばす。


「じゃあね、かれのなまえくんも早く帰りなよー」
「あ、教科書・・・」

開けっ放しだった鞄の中には、
ノートより一回り小さいあの教科書は確認できなかった。

おま、だから宿題出てるっつの。




「大丈夫、当たってもいいようにもう翻訳は終わってるから」

何気なく、なまえは言った。



・・・・・・やっぱりそうだったか。




「なまえー、起きてんならそろそろ話し相手になってくれてもよくね?」


「嫌。一人むなしく喋ってるかれのなまえくんの声を聞くのが
あたしの日課なんだから」


「・・・うっわー、何その顔、まじムカつく」





赤く滲んだ悪戯顔
ムカつくくらい愛おしくて、笑いが込み上げた。


 ゆうひの あか

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放課後、毎日教室で机に突っ伏して眠るなまえちゃんと、それを放っておけず、見守り続けて14日目のかれのなまえくん。

なまえちゃんは憧れの先輩の部活が終わるのを待っているのです。
かれのなまえくんはそんななまえちゃんがすきです。

ちなみに、なまえちゃんは3日目くらいから寝たふりを覚えました。
そんななまえちゃんに、かれのなまえくんも気づいていました。


っていうことを表現。したかった。

なんてわかりにくい文章。
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